2026年7月3日 19時00分印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするこの社説のポイント●独立宣言から250年の米国。掲げられた人民主権と、権力を法で縛る理念がいま揺らいでいる●トランプ時代、行政権の肥大化だけでなく、民主主義を支える規範の衰えも深刻だ●弊害も広がる。持ち前の復元力を生かし、建国の約束を守り抜く努力が求められる

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1776年、米国は独立宣言で世界に新しい政治理念を示した。すべての人は平等につくられ、政府の正当な権力は人民の同意に由来する――。この理念は英国王政との決別にとどまらず、権力を法によって制約するという新たな統治原理へと発展した。後に合衆国憲法に受け継がれ、三権分立や連邦制などの制度に結実した。 建国の祖は「人は権力を握れば、それを拡大しようとする」との認識から権力を権力で抑える仕組みを築いた。奴隷制や人種差別などの矛盾を抱えながらも理念の実現へ米国は歩みを進めてきた。 その歩みがいま大きな岐路に立っている。250年後の米国を見た建国の祖は、どんなに仰天するだろう。トランプ大統領が臆面もなく自らを「王」になぞらえているからだけではない。制約されるべき行政権が、王権のように肥大化しているからだ。 大統領令を乱発し、独断で政策を進める。関税や軍事では議会を迂回(うかい)し、中立であるべき軍や司法を自らの政治目的や政敵排除の「武器」に利用する。踏みにじられているのは建国以来の「法の支配」と「抑制と均衡」である。 民主主義を支えるのは法律や制度だけではない。政治家が自制し、対立相手を正統な政治勢力として認める不文律の規範があってこそ、制度は機能する。法に違反しなくても、この「柔らかなガードレール」(米政治学者レビツキー氏)が壊れれば、民主主義は内側から弱まっていく。 弊害はすでに表れている。異論や慎重論を唱える専門家が遠ざけられ、忠誠を競う体制は政策判断を誤らせる。誤算だらけのイラン攻撃は典型だ。同盟国からの不信や求心力の衰退、中国との競争力低下にもつながる。米国が主導してきた国際秩序も大きく揺らいでいる。 米国はこれまでも振り子のように行きつ戻りつして軌道を修正してきた。その復元力は失われたわけではない。連邦最高裁は行政権の拡大を広く認める一方、一律関税を違法とし、連邦準備制度理事会(FRB)の独立性を認めるなど一定の歯止めをかけた。しかし、権力の重心が行政権へと移りつつあることは否定しがたい。 トランプ氏はクーデターではなく、選挙で大統領に就いた。選んだのも人民なら、その権力を制約するのも人民であるべきだ。米国に問われているのは、「権力は人民に属し、その権力は法と制度によって縛られる」という建国時の約束を果たせるかどうかである。アメリカの独立250年、なぜ注目? トランプ大統領の狙いは?「社説digital」は、朝日新聞朝刊に掲載する社説をいち早くお届けします。有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません