コラム・寄稿カンヌ出品「箱の中の羊」 評論家は是枝脚本の「綾のつけ方」に注目2026年5月22日 10時00分秋山登・映画評論家印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする
[PR]
是枝裕和監督の「箱の中の羊」が、開催中の第79回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されています。最高賞パルムドールはなるのでしょうか。 23日夜(日本時間24日未明)の授賞式を前に、映画評論家の秋山登さんが、作品を論じます。 ◇ 目まぐるしいご時勢である。わけてもAIのこと。すでに私たちの日常の隅っこまで入りこんでいて、その「成長」の早さときたら空恐ろしい。 これは、AI仕様のヒト型ロボット、ヒューマノイドを家族として受け入れた中年夫婦の話である。監督が是枝裕和。含蓄と余韻に富み、大いに考えさせる。 開巻ほどなく、こんな場面がある。建築家の甲本音々(おとね、綾瀬はるか)と夫の工務店社長の健介(大悟)が、2年前に7歳で亡くした息子の翔(かける)の姿をしたヒューマノイド(桒木里夢〈くわきりむ〉)を家の前で迎える。翔が言う。「ただいま。ママ、パパ」。満面の笑みの音々が答える。「おかえり、翔」。硬い表情の健介は言う。「いらっしゃい」。そして後に言い添える。「わしは君のパパではない」「おじさんでええよ」 是枝のオリジナル脚本である。独白の味付けと練れた語り口が、はらはらさせながら私たちを楽しませる。 綾(あや)のつけ方がうまい。音々の母と妹の突然の来訪、健介の会社の職人たちのあしらい、子供の行方不明事件が多発というミステリー。それに切れ味の冴(さ)えたせりふの数々。ヒューマノイドを修理する技師が音々に言う。「(翔は)あなたの過去の産物に過ぎません」。工務店の老職人が翔に言う。「木は死んでも生きている」 夫婦は少しずつ変わる。息子の死についてのそれぞれの負い目からも解放されている。そのころ、翔は翔でヒューマノイドの仲間と交流を深めている。 これは、大筋をたどると、悲しみを抱えた夫婦がヒューマノイドに癒やされる話である。私たちは、生きることの喜びと哀れさを味わう思いがする。 実は、この映画にはもうひとつの物語がある。本編が終わった時、私たちの頭の中で始まっている。ヒューマノイドと人類の先行きについてである。こっちの物語こそ、この映画の核心に相違あるまい。 ともあれ、ずっしりとした手ごたえを感じさせる秀作である。◇東京、大阪など各地で29日公開有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません関連トピック・ジャンルジャンル印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする















