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生成AI(人工知能)の普及に伴い、報道のあり方が問われている。読者の信頼を得るために、何をするべきか。AI時代に記事データはどのように活用されるべきか。第三者機関「メディアと倫理委員会」の有識者5人に語ってもらった。司会は山浦一人事務局長が務め、7月30日に開かれた。アテンションエコノミーの罠 注意が必要 朝日新聞はデジタル版で、記事がどのように読まれたかといったデータを編集部門で共有している。読者にどう届いているかを把握し、より良い記事を作っていくためだが、記事の内容が影響を受けないかという懸念もある。人々の注意を奪い合って収益に変える「アテンションエコノミー」が、報道をとりまく環境を激変させているからだ。 ――AI経由で情報に接することが当たり前になる中、メディアは自らを取りまくデータとどう向き合うべきか。 【髙部眞規子委員】 記者が自分の書いた記事について、読者からのフィードバックを一つ一つ受け取るような形になる。励みになったという記者もいれば、「こういう記事を書くとこんな反応だったから、もっと読者に受ける記事にしよう」と考えるケースもあるのではないか。 そうした現場の声を、つかめているのか。会社として記者の受け止めを把握してその結果をどう活用するかが大切だろう。 【森亮二委員】 読まれ方のデータを編集部門で共有することの影響として、見出しを注目されやすくする程度のことは構わないが、「エモく、分かりやすく」への過度の傾斜が生じるのではないか。 世の中には法改正や経済問題のように、本質的に無味乾燥で分かりにくいものが存在する。危ういのは、そうしたものをそもそも取り上げないという「論点選択」が起きることだ。分かりにくいものに触れなくなった読者は、エモく分かりやすいものしか読めなくなる。それが数字に表れ、供給側がさらに論点選択を強める。社内でアテンションエコノミーの罠(わな)に陥らないよう注意が必要だ。 【宍戸常寿委員】 読まれ方を示す数字そのものには有用な使い方がある。ただ、もとになるデータが本当に必要十分なのかこそが問題だ。何を知りたいか明確な意識があってデータを集めているのか、たまたま手元で取れるデータを加工しているだけなのか。後者なら、数字を使っているつもりで、逆に数字の論理に引きずられる。 特に心配なのは編集過程におけるデスクや部長といった管理職層の数字への向き合い方だ。単純に「数字が悪かったから、こうしろ」と現場に言わないための訓練や研修が必要だ。そこをしっかりすることで、むしろ朝日新聞の強みが出るはずだ。 【鎌田靖委員】 アテンションエコノミーはテレビの視聴率競争や過剰報道問題に似ている。民放のニュースでは人的被害がない火災でも燃え盛る映像があるとトップニュースに置くことが目立つ。視聴者が派手な映像に引き付けられるからだ。NHKは視聴率競争とは距離を置けるのでNHKにいた当時、そうした民放のニュースの扱いに疑問を持っていた。しかし、最近はNHKでも火災のニュースをトップに持っていくことがある。つまり民放に引きずられているという印象だ。新聞も経営問題を無視することはできないが、動画配信やSNSの発信者と同様のことをやっても、勝てるはずがない。むしろ迎合してほしくないし、迎合しているように見えるのも良くないのではないか。 【二子石謙輔委員】 新聞社にとっては経営の本質に関わる問題だ。「義を明らかにして利を計らず」という言葉がある。利益は大事だが、それ以上に本来の存在意義や大義を忘れてはいけない。記者が数字を見て「こういうのが受けるんだな」などと考え出したら、どういう組織になるか。そこは上の方でバランスをとってリードし、目先の評価ではなく後々にも残るような良い記事を書く記者を育てていってほしい。 【坂尻顕吾常務取締役(編集担当)】 記者がどう受け止めているかは、私たちも気にかけてきた。導入した当初は読まれた数値がむき出しで並び、その差だけが強調され過ぎているとの批判も出た。そういった声を受け、この10年で何度か仕様を見直している。 データそのものが適正なのか、という指摘は、我々も問題意識として持っている。今あるもので十分だとは考えておらず、さらなる見直しを続けている。 一部の幹部だけが数字を持ち、上から指示するやり方も当然あるとは思う。ただ、2千人弱の人数を抱える組織で、司令塔だけがすべてを判断するのは現実的ではない。「より良く読まれるにはどうしたらいいかを各部署でも考えられるようにしたい」というのが今の運用の考え方だ。根っこには「朝日新聞を信頼して読み続けていただきたい」という思いがある。 我々が取り組んでいるのは、テーマを選び直すことではなく、表現を良くすることだ。数値だけを当てはめて、このテーマは扱うがこちらは扱わない、という編集判断に傾いてはいけない。対ビックテック 朝日新聞は生成AIの活用を進めている。全社員が使える対話型AIを導入し、原稿の校正や、取材の録音を文字にするツールも自前で開発した。一方、記事が無断でAIの学習に使われることへの懸念は強く、日本新聞協会はAI事業者に対価の支払いを求めている。AIを使用しながら、そのAIを同時に監視できるのかが課題だ。 ――AI時代の権力監視は、どうあるべきか。 【森委員】 権力監視は朝日新聞の核だ。では、現代の権力とは何か。政権はもちろん権力だが、富を分配し人々の生活を実際に変えているという意味での真の権力は「ビッグテック」ではないか。新聞社がAIを使い、読者の注意を集めることを指標にして動けば、その相手と同じ行動原理で動くことになり、監視も批判もしにくくなる。 欧州連合(EU)ではプラットフォームへの規制が進み、その動きは報じられているが「日本はどうなのか」という視点が書けるのか。総務省の検討会で同じ議論があるのに、踏み込めていない。硬くて長い話は数字が伸びなくとも、そこを扱うことこそが読者をつなぎとめる。 取材の体制も気になる。個人情報保護委員会や総務省に張り付く記者が足りていないのではないか。特派員が「日本ではどうなのか」と問われて答えるには、国内の議論を把握しておく必要がある。 報道する側が「AI全振り」の状態で、今後のAI開発が人間や社会に及ぼす影響について批判的に検討し、監視できるのか。心配は残る。 プラットフォームとの関係について付言すると、例えば新聞社同士の記事の相互活用のような連携機能を更に深化させて「新聞」というまとまりで対抗するのも力の非対称性を少しでも埋める方法だと思う。 【髙部委員】 私自身は、新しい技術に真っ先に飛びつくのが良いことだと思っているわけではない。それでも、記者向けのAIツールを自前で作る新聞社が出てきていると聞けば、事業者に頼りきらずに済む道はあるのだと思う。何をどこまで外に委ねるのかは、意識して選び取るべきだ。 また、朝日新聞社が保有する記事や写真のアーカイブをライセンス化するなど既存の資産を生かせば、AI事業者との協働や対抗も考えられる。 権力監視についていえば、政権や検察、大企業に加えて、AI事業者も対象になるというのは現代の特徴だ。AIを活用しながらAIを監視するのは容易ではなく、自らも監視される対象だという自覚を持ってことにあたるということだろう。 【角田克社長】 AI事業者を監視すると言っても、実際には難しい。どんなアルゴリズムで動き、どの国にどういう施策を打っているのか。肝心なところが外からは見えない。徹底的に取材して発信したいが、欧米メディアを見ても、本当に監視できているところはほとんどないのではないか。 海外の動きを伝える時、「日本ではどうか」「歴史的にはどうか」という縦軸と横軸が抜けている、この指摘はしっかりと受け止めたい。 【宍戸委員】 監視が難しいのは、海外の巨大企業に限らない。国内でも、AIに関する政策が形づくられる段階での取材や報道が足りていない。内閣府などでの省庁横断的な政策形成に対して、記者クラブ依存の取材では限界があるのではないか。 政策は、有識者会議の顔ぶれが決まった段階で方向がほぼ固まることが多い。国会で対決法案になってから書き始めるのでは遅い。AIをめぐる政策に強い記者を張り付けて継続的に取材している社もあり、なぜその社しか追っていないのかと驚くこともある。記者配置の問題としても考えて欲しい。 他方で、7月29日の「SNS利用、高校野球でも模索続く 3345校の指導者の声を分析」というデジタル版の記事(紙面は7月27日掲載)は良かった。抽象的にSNSについて語るのではなく、高校野球という現場を持つ強みと社会的なテーマを掛け合わせた、他では書けない記事だ。数字が伸びていなくとも、こうした記事をもっと深掘りして欲しい。責任は人間に 朝日新聞は角田社長が社内に「AI全振り」と呼びかけ、新しい技術に慣れるよう促してきた。一方で入社1年目の記者は、記事の作成にAIを使わないという方針をとる。 ――記者はAIと、どう付き合うべきか。 【鎌田委員】 AIを全く使わないという選択肢はない。どの程度利用するかということだ。「自分で考えて自分で責任が取れる」範囲にとどめる必要があるのではないか。実務経験者として言わせてもらうとデスクは誤報を防ぐための最大のチェック機関であり、ニュース判断のキーパーソンだ。西欧ではいわゆるエディターの価値は高い。デスクは必要ないという論には反対だ。また記事の作成に入社1年目の記者には使わせない方針については1年がいいかどうかは別として、原稿作成に習熟するためのトレーニング期間は必要なので、評価する。AI利用について逆に懸念しているのは、AIを使って書いていること自体がネット上で炎上する火種になりはしないかということだ。AIが書いた記事など読みたくないと読者に思われないようにしなければいけない。むしろ「この記事はAIを使っていません。多数の記者の取材結果です」とアピールする方がプラスになる時代が来るかもしれない。 AI導入によって、総合的な記者の力量向上に結びつくかどうかが肝心だ。空いた時間を使って人に会い、あるいは一次資料を発掘して調べる時間が増えるのであれば、意味は大きい。単にコストを減らす、省力化だけで終われば、記者は育たないし導入の意味もない。 【二子石委員】 「これ、AIで書いてきたな」と思う文章が回ってくるようになった。あいさつ文までAIに任せていたという人がいて、「自分の頭で考えろよ」と思ってしまった。道具として大いに活用すべきだとは思う。ただ、便利さと引き換えに、自分で考えることを手放す危うさがある。記者であれば、なおさらだ。私は銀行にいたころ、規模を追うべきかどうかを何度も議論した。だが、本当に問われたのは、その事業が本来どうあるべきかを考え続けられるかどうかだった。AIも同じだと思う。記者には、自分が朝日新聞を代表しているのだという気概を持ってほしい。AI時代になってもその大切さは変わらないはずだ。 【髙部委員】 何が重要で、何を報道しなければならないかという判断は、人間である記者・編集者にあり、AIには委ねられない。だからこそ、どこまでがAIの仕事で、どこからが人間の仕事かを切り分け、透明性を持たせることが重要だ。 「AIを使いました」と説明したとしても、最後の責任は人間で構成される朝日新聞社が取るのだという姿勢こそが問われる。活用と監視、両立させる 【角田克社長】指摘を受け、数字が記者の判断に及ぼす影響を社内で改めて議論したい。記事がどう届いているかを知ることは必要だが、この先、それが何を取り上げるかの選択にまで及んではならない。 AIは活用を進めるが、同時に、AI事業者そのものを監視する取材の体制を強化したい。「日本ではどうなのか」を問う視点や、政策が形づくられる段階からの取材が足りないという指摘には、速やかに対応していく。 権力監視を担う記者の配置や問題意識は全く後退していない。次世代に信頼を引き継ぐために何をすべきかを問い続け、取材と発信を強めていきたい。朝日新聞の取材・報道とAIの利活用 朝日新聞社が昨年9月に定めた「AIに関する考え方」は、AIを人間を補助する役割と位置づけ、最終的な判断と責任は人間が担うとしている。 取材・報道の現場では、資料の収集や録音データの文字起こし、海外資料の翻訳、論点整理などに使う。入力した情報が外部のAIに学習されない、安全性を確保したシステムを利用している。 出力された情報は事実確認を徹底し、そのままコンテンツに使う場合は上司の許可を求める。主要な部分でAIが大きな役割を果たしていれば、読者に説明する。新人記者は、書く力や考える力を身につける時期にあたるため、当面は1年間、原稿作成の過程でAIを利用しない方針で運用している。委員のプロフィール髙部眞規子 1956年生まれ。弁護士、元裁判官で知財高裁所長、高松高裁長官を歴任森亮二 1965年生まれ。弁護士、専門分野はプライバシー保護、個人情報保護法宍戸常寿 1974年生まれ。東京大学大学院教授、専門は憲法学、情報法鎌田靖 1957年生まれ。ジャーナリスト、元NHK解説副委員長二子石謙輔 1952年生まれ。セブン銀行特別顧問。同行社長、会長を歴任メディアと倫理委員会とは 社外委員5人で構成する第三者機関。朝日新聞社や朝日新聞出版が発行する新聞、雑誌、書籍、デジタルメディアなどの報道による名誉毀損(きそん)、プライバシー侵害などの人権侵害が生じた場合に被害救済を図る役割を担う。 また、報道現場が直面する課題や問題に関して、専門家の立場で考え方や解決策を示す提言機関としての機能も持つ。 前身は2001年に設けた「報道と人権委員会」で、ネット社会に対応するために委員と専門分野を拡充して、22年4月に発足した。







