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長い休みが明けると、なんだか体が重い。そんな経験はありませんか。 休んだはずなのに、なぜか疲れが取れていない。生活リズムは崩れ、たまったメールを開くだけで気持ちがどんよりする。「休んだのに、かえってつらい」というのは、実は多くの人が感じることです。 ADHD(注意欠如多動症)の主婦リョウさん(架空の人物)の家でも、毎年この時期になると、ちょっとした「あるある」が繰り広げられます。休み明け、大量のメールに手も足も出ず リョウさんの夫(40代・会社員)もまた、ADHDの傾向があります。毎年夏休みは実家でのんびり過ごし、昼寝をしたり、子どもと川遊びをしたり、仕事のことなど頭の片隅にも置かずに満喫します。 ところが、休みの終わりが近づくにつれて、様子が変わってきます。 夫「あーあ、休み明けたらメール何百件もたまってるんだろうな……」 そう言いながら、ソファでスマホをいじる手が止まります。休みの最終日あたりから、明らかに口数が減り、ため息が増えてくるのです。 そして迎えた休み明けの朝。いつもより早く起きたはずなのに、なかなか仕事に取りかかれません。パソコンの前に座っても、メール画面を開いたまま固まっている。リョウさんから見ると、まさに「仕事のエンジンがかからない」という状態です。 リョウ「ねえ、メール開いたまま、もう15分経ってるよ」 夫「うん……わかってるんだけど、何から手をつけていいか、頭が動かなくて」 責めているわけではないのですが、つい声をかけてしまうリョウさんです。そしてリョウさんの夫自身も、決してさぼりたいわけではないのです。むしろ「早くやらなきゃ」と焦る気持ちはあるのに、体がついていかない。そんなもどかしさを抱えているようです。 これが毎年のパターンでした。「やる気」が立ち上がりにくいタイプの人も こうした状態の背景には、ADHDの特性のある方に見られやすい「やる気の立ち上がりにくさ」があるといわれています。 やる気には、脳内のドーパミンという物質が関係しています。ドーパミンは、物事に取り組むための「よし、やろう」というスイッチを押す役割を持つ物質です。ADHDの特性のある方の中には、このドーパミンの働きが弱かったり、必要な場面でうまく分泌されにくかったりする場合があるといわれています。 つまり、「やる気が出ない」のは、意志が弱いからでも、仕事への責任感がないからでもなく、脳の仕組みの問題かもしれないのです。 もちろん、休み明けに仕事へ戻りにくいのは、誰にでもあることでしょう。完全にオフになっていた状態から、一気に仕事モードへ切り替えるのは、誰にとっても負担の大きい作業です。 ただ、ADHDの特性のある方の場合、この「オフからオンへの切り替え」にかかる負担が、より大きくなりやすいようです。 では、どうすればよいのでしょうか。 ここで大切な考え方があります。それは、「0から1に戻すのはとても大変だが、1から2へ進むのは、まだ負担が小さい」ということです。 完全に仕事をゼロにしてしまうと、休み明けには「ゼロから仕事を立ち上げる」という、もっとも重たい作業をしなければなりません。 ところが、ほんの少しでも仕事とのつながりを残しておけば、休み明けは「1を2にする」だけで済みます。この差は、体感としてかなり大きいものです。休みのうちにやっておくと良いこと そこで、リョウさんの夫には今年の夏休みに、こんなことを試してもらいました。 夏休みは社内で交代で分散してとるため、リョウさん家族は平日に実家に帰省しました。平日なので、メールは普通にやってくるのです。そこで、メールの返信だけは毎日済ませてもらったのです。まとまった仕事をしていたわけではありません。1日に数件、返信が必要なメールにだけ目を通し、簡単な返事を打っておく。それだけです。 夫「これだけやっとけば、休み明けに『うわ、何から手をつければ』ってならずに済むかな」 実際、休み明けの朝は「エンジンがかからない」状態ではありましたが、まったくのゼロからのスタートではなかったぶん、思っていたよりは早く動き出せたようでした。 誤解しないでいただきたいのですが、「休暇中もずっと働くべきだ」ということではありません。休むことは、心と体にとって、とても大切なことです。そうではなく、仕事とのつながりを完全には切らず、ごく細い糸を1本だけ残しておく。そんなイメージです。 ・メールを1日数件だけ確認する ・返信が必要なものにだけ、ごく簡単に返す ・休み明けに最初にやることを、ひとことだけメモしておく このくらいの、ごく小さな作業で十分です。大きく気合を入れて仕事をする必要はまったくありません。「休み明けの自分」に向けて、ほんの少しだけ糸を残しておくのです。 「休み明けに仕事のスイッチが入らない」というのは、決してさぼりや、仕事への責任感のなさではありません。ADHDの特性のある方の脳は、オフからオンへの切り替えに、もともと少し時間や工夫を必要とするようです。自分を責めるよりは、自分の脳の切り替え方に合わせて、休暇前後の仕事の設計をしておくといいでしょう。 もちろん、このやり方が合わない方もいらっしゃいます。そもそも、休日は会社のメールを見られないという方もいらっしゃいますね。向いてない・できないという方は無理をしないでください。しかし毎年苦労されている方、物は試しです。 ◇ このコラムでご紹介したADHDについてもっと知りたい方は「もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で『生きづらさ』を解決する(光文社新書)」(中島美鈴著、2018)もどうぞ。<臨床心理士・中島美鈴> 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。






