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お盆や年末年始、実家や義実家への帰省シーズンになると、こんな声をよく耳にします。 「休暇だったはずなのに、全然休めなかった」 親族との付き合い、実家や義実家で期待される役割、家事、親への気遣い……。休みのはずが、いつもの生活よりもむしろ神経を使う、という方も少なくないのではないでしょうか。 今回は「家族との心地よい距離感」を考えます。夫が決めた「実家に3泊」 リョウさん(架空の人物)一家も今年のお盆、夫の実家に3泊することになりました。きっかけは、夫が自分の親と先に話を進めてしまったことです。 夫「お盆、実家に3泊しようって、母さんとも話しちゃったんだけど」 リョウ「え、3泊? 先に決めちゃったの?」 リョウさんは、正直、事前にしっかり相談してほしかった、という気持ちはありました。ただ、その場では深く考えずに了承してしまったのです。 リョウ「まあ、ごはん作ってもらえるなら、ちょっとは楽できるかもね」 そう思っていました。ところが、実際に帰省してみると、状況はまったく違ったのです。「もういい加減にしてほしい」 義実家では、義母が食事を用意してくれます。ただ、リョウさんが積極的に台所に立たないことに、義母はどこか不満そうでした。ちょっとした嫌みを言われることも、一度や二度ではありません。 さらに、思春期に入った娘の態度にも、義母は不満を持っていました。服や荷物を脱ぎっぱなし、置きっぱなしにすること。そして、以前ほど祖父母になつかず、少し距離を置くような態度を取ること。それらについて、義母は夫を通して、こう伝えてきたのです。 「お母さんのしつけが、足りないんじゃないの」 夫からその話を聞かされたとき、リョウさんは疲労と怒りが一気にこみ上げてきました。 リョウ「なんで娘の態度が、全部私のしつけのせいになるの? もう、いい加減にしてほしい」 リョウ「ごはん作らなくていいから休めると思ってたのに、結局ずっと気を張ってた。全然休めてないよ」 夫も、リョウさんの疲れきった様子を見て、ようやく事の重さに気づいたようでした。 夫「ごめん……前回の帰省のときも、同じ感じで疲れてたよね。それなのに、また同じことを繰り返しちゃったな」 そうなのです。実は、これまでの3泊の帰省でも、リョウさんたちは同じように疲れ切っていました。それにもかかわらず、「今回は何とかなるだろう」「食事を作ってもらえるから楽だろう」と、根拠のない楽観を重ねてしまったのです。背景にある「夫婦の合意形成不足」 こうして振り返ってみると、今回の帰省がつらいものになった背景には、義母やリョウさんの夫、どちらかの「悪意」があったわけではないようです。むしろ、夫婦の間で、事前の計画や合意形成が不足していたことが、大きな原因だったのではないでしょうか。 過去に疲れた経験があるのに、その経験を次の計画に生かせていなかった。これは、決してリョウさん夫婦に限った話ではないかもしれません。 みなさんも、「去年もしんどかったのに、今年もつい同じ予定を組んでしまった」という経験はありませんか。 では、どうすればよかったのでしょうか。 大切なのは、帰省の前に、夫婦で過去の経験を振り返り、具体的にすり合わせておくことです。たとえば、次のようなことを話し合っておくとよいでしょう。 ・何泊なら、無理なく過ごせるのか ・実家に泊まるのか、近くのホテルに泊まるのか ・祖父母も一緒にホテルへ宿泊するという方法はないか ・外食や出前を利用して、義母や自分の家事負担を減らせないか ・家事は、誰がどこまで担当するのか ・娘が1人で過ごせる時間や場所を確保できないか これらを事前に具体的に決めておくだけで、当日の気疲れは大きく変わってくるはずです。一方的に我慢することが親孝行? こうした調整の話をすると、「そこまでするのは親不孝ではないか」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、親の希望をすべて受け入れることだけが、親孝行ではないはずです。逆に、自分たちが一方的に我慢し続けることも、本当の意味での親孝行とは言えないのではないでしょうか。 「親の希望をすべて受け入れるか、帰省をまったくしないか」という白か黒かの考え方は、かえって家族との適切な距離を見つけにくくしてしまいます。 泊数を短くする、ホテルを利用する、日帰りにする、外食を増やす。そうした選択肢を柔軟に増やしながら、自分たちにとって心地よい距離を探していく。それでよいのです。 もうひとつ、お伝えしたいことがあります。娘の態度について、「母親のしつけが足りない」と言われたとき、その言葉をそのまま受け止めてしまう必要はありません。 子どもの人格や行動には、その子自身の気質、発達の段階、学校や友人関係など、実にさまざまな要因が関係しています。また、思春期になり、祖父母から少し距離を置くような態度を取ることも、多くの場合、自然な発達の一過程です。 娘と母親は、それぞれ別の人格を持つ、別々の人間です。娘のあらゆる態度を、母親一人の責任として抱え込む必要はないのです。家族を大切にしながら、自分たちの限界も守る 家族を大切にすることと、自分を守ることは両立する。 親孝行か、親不孝か。そんな二択で悩む必要はありません。 家族を大切に思う気持ちと、自分たちの限界や境界線を守ることは、決して矛盾するものではないはずです。 過去の経験を、次の計画にきちんと生かすこと。そして、夫婦で率直に話し合い、無理のない距離や方法を一緒に考えること。それこそが、家族全員にとって、心地よい帰省への第一歩になるのではないでしょうか。 ぜひ、次の帰省の前には、夫婦で「これまでどうだったか」を振り返る時間を、少しだけつくってみてください。 ◇ このコラムでご紹介した考え方のクセについてもっと知りたい方は、著者の本「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門」(光文社新書)もどうぞ。<臨床心理士・中島美鈴> 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。