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みなさんは、「私、ADHDだからさ」という言葉を聞いたことがありますか? 最近、SNSでもよく見かけるようになりましたね。注意欠如多動症(ADHD)に関する情報が広まること自体はとてもいいことだと思います。でも、その一方で、ちょっと気になることがあるのです。えへへ、私ADHDだからさ ADHDの主婦リョウさん(架空の人物)は、月に1度の楽しみの、友人5人でのランチ会に出かけました。待ち合わせは11時半。4人がそろって楽しくおしゃべりしていると、15分ほど遅れて、友人のマキさん(同)がやってきました。 マキ「ごめんごめん! えへへ、私ADHDだからさ、時間の管理がほんとダメで~」 笑いながら席につくマキさん。まわりの友人たちも「まあまあ」と笑って受け流していました。 でも、リョウさんの胸にはモヤッとしたものが残りました。 リョウ「ADHDだから遅刻しても仕方ないって……そういうものなの? 私だって毎朝バタバタして遅刻しそうになるけど、がんばって間に合わせてるのに……そして何より私は診断を受けたADHD。マキなんて学生の頃は宿題いつも間に合ってたくせに。都合のいい時だけADHDを持ち出さないでほしい」 このモヤモヤ、みなさんはどう思われますか?「ADHDだから」で済ませていいの? もちろん、ADHDの特性として、時間の見積もりが苦手だったり、出かける直前にあれこれ気になって準備が遅れたりすることはあります。それは事実です。 でも、遅刻の原因を即座に「ADHDだから」と決めつけてしまうのは、少し立ち止まって考えたいところです。 遅刻の背景には、いろいろなことが絡み合っている場合があります。たとえば、「友達とのランチだし、少しくらい遅れても大丈夫だろう」という油断。相手の時間を大切にするという配慮が薄れていること。あるいは、「ADHDだから」と言えば許してもらえるだろうという甘え。 これらは、ADHDの特性とは別の問題です。社会常識への意識や、相手への思いやりの話でもあるのです。 近年、SNSで「ADHDあるある」が広がり、「私もそうかも」と感じる方が増えています。自分の困りごとに名前がつくと安心するのは自然なことです。 ただ、専門家として少し心配しているのは、きちんとした診断を受けずに「私はADHDだから」と自己判断してしまうケースが増えていることです。 これを「過剰自己診断」と呼ぶことがあります。原因が発達特性なのか、環境への反応なのか、生活習慣からくるものなのか。原因によって対処法はまったく異なります。まず、寝てください さて、ここからが今日いちばんお伝えしたいことです。 ADHDかもしれないと悩んでいる方に、私がまずお願いしたいこと。それはポモドーロタイマー(集中と休憩を繰り返す時間管理術のためのツール)でも、注意持続訓練でも、転職でも、最新のアプリでも、コーチングでもカウンセリングでもありません。寝ることです。「え、それだけ?」と思われたかもしれません。でも、これにはちゃんと理由があります。 ADHDの症状を説明する現在もっとも有力な考え方に「実行機能仮説」というものがあります。これは、脳の前頭前野という部分の働きがうまくいっていない、という考え方です。前頭前野は、計画を立てたり、注意を切り替えたり、衝動を抑えたりする、いわば脳の司令塔のような場所です。 そして、この前頭前野がしっかり働くためには、十分な睡眠が欠かせません。 寝不足の状態で集中力や判断力を発揮しようとするのは、メモリーが足りないパソコンに次々とアプリをインストールしようとしているようなものです。どんなに優秀なアプリを入れても、そもそもパソコンが動かなければ意味がありませんよね。 まずは8時間くらい寝てみてください。それが下地です。その土台ができてから、いろいろな工夫や治療を重ねていくのです。 睡眠が足りないと、判断力も、記憶力も、集中力も落ちます。すると、本来はADHDではないのに、まるでADHDのような症状が出てしまうことがあるのです。つまり、睡眠不足を解消しないまま「自分はADHDだ」と判断するのは、脳がちゃんと働いていない状態で自分を見極めようとしているということ。それでは正確な判断はできません。 もちろん、食べることも忘れずに。脳はたくさんのエネルギーを使いますから。 リョウさんのモヤモヤに話を戻しましょう。 「ADHDだから」という言葉は、使い方によっては自分を守る盾にもなりますが、周囲の人への配慮を忘れさせてしまうこともあります。本当にADHDの特性で困っている方にとっても、安易に使われることで「またそれか」と軽く見られてしまうリスクがあるのです。 もし「自分もADHDかも」と感じている方がいらっしゃったら、まずは十分な睡眠をとって、脳をしっかり働かせてあげてください。だまされたと思って、やってみてください。そのうえで、まだ困りごとが続くようであれば、専門家に相談してみましょう。 あなたの困りごとは、欠点ではありません。自分との付き合い方を見つけるきっかけかもしれません。まずは今夜、少し早くお布団に入ることから始めてみませんか? ◇ このコラムでご紹介したADHDについてもっと知りたい方は「もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で『生きづらさ』を解決する」(光文社新書、2018年)もどうぞ。〈臨床心理士・中島美鈴〉 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。










