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みなさんは、朝起きてからスマートフォン(スマホ)を見ずに過ごしたことはありますか? アラームを止めたあと、そのままSNSを開く。少しだけニュースを見るつもりが、動画を見続けてしまう。寝る前に「5分だけ」と思ってスマホを触ったのに、気づけば深夜になっている。 最近では、「スマホを見すぎて集中できない」「SNSを見たあと気分が落ち込む」「やめたいのにやめられない」と悩む方が増えています。実は、こうしたスマホの過剰使用は、専門的には「行動嗜癖(しへき)(behavioral addiction)」、つまり依存の一種とみなされています。 スマホがないと不安や落ち着かなさを感じたり、生活に悪影響があっても使用をやめられなかったりする状態です。 海外の研究では、スマホの過剰使用は、睡眠や食行動の乱れ、学生の生活の質(QOL)の低下などと関連することが指摘されています。「スマホ依存」=「ADHD」ではない 私のところにも、「スマホがやめられないのはADHD(注意欠如多動症)だからでしょうか」という相談が増えています。 たしかに、ADHDの方は、刺激に注意を奪われやすかったり、目の前の報酬を優先しやすかったりする特性があります。そのため、通知や短い動画が次々と流れてくるスマホ環境では、影響を受けやすい面があります。 でも、「集中できない」「スマホがやめられない」という困りごとは、単純に「脳の障害」だけで説明できるものではありません。例えば「ストレスや睡眠不足など第三の要因が影響している」「長時間のスクリーン使用で注意散漫さが強まる」といった可能性も考えられます。ですから、スマホ依存は、現代のデジタル環境との相互作用の中で理解する必要があるのです。本当の欲求を知る「機能分析」 32歳の会社員、ユイさん(架空の人物)も、「スマホがやめられない自分はADHDかもしれない」と不安を感じています。 仕事から帰宅すると、ソファに座ったままSNSを見続けてしまいます。 ユイ「ちょっとだけ休憩のつもりだったのに……」 気づけば1時間以上たっています。お風呂にも入れず、寝る時間も遅くなり、翌朝はまた起きられません。 カウンセリングでユイさんは、「機能分析」という手法を試しました。 これは、「スマホ使用が本人にとってどのような役割(機能)を果たしているのか」に注目する方法です。 多くの方は、「なんとなく触ってしまう」と感じています。しかし、その背景には、「疲れた頭を休ませたい」「仕事のストレスを忘れたい」「孤独感を紛らわせたい」「現実から少し離れたい」といった、本当に満たしたかった欲求が隠れていることが少なくありません。 ユイさんは、以下の5項目をノートに記録してモニタリングすることにしました。 1. 日付 2. 今日の出来事(スマホ使用に影響していそうな出来事) 3. スマホ使用の量(SNSや動画視聴時間など) 4. 本当に欲しかったもの(例:安心感、休息、気晴らし、人とのつながり) 5. 代替行動(スマホ以外に試した行動) 記録を続ける中で、ユイさんはあることに気づきました。 仕事で強く気を張った日ほど、帰宅後にスマホ使用が増えていたのです。 上司から急ぎの修正依頼が来て、チャット通知が鳴り続け、ミスをしないように神経を使う。帰宅するころには、頭がぐったり疲れている……。そんな日にはスマホに現実逃避していました。 ユイ「帰ると、もう何も考えたくないんです」 つまり、ユイさんが本当に求めていたのは、「SNSを見ること」そのものではなく、「疲れ切った脳を休ませること」だったのです。確かに受け身でいるだけで、次々に面白い動画が流されていると、なんにも考えなくても心地いいですよね。 しかし、長時間スマホを見続けることで睡眠が乱れ、翌朝さらに疲れた状態になる。その結果、またスマホに頼りたくなるという悪循環が起きていました。ADHDの特性がある場合の専門的な工夫 もし背景にADHDの特性が重なっている場合には、さらに工夫が必要です。 ADHDの方は、「報酬遅延障害」と呼ばれる、「後でもらえる大きな利益」よりも「今すぐ得られる小さな快感」を優先しやすい特性を持つことがあります。 スマホは、通知、動画、SNS反応などによって、即座にドーパミン報酬が得られるため、本人の意志だけでコントロールするのは非常に難しいのです。 そのため、臨床現場では以下のような工夫を組み合わせます。 ・即時報酬の準備: スマホ以外で、すぐに心地よさを得られるもの(温かい飲み物、好きな音楽など)を用意する。 ・価値の再確認: 「睡眠を大切にしたい」「朝を穏やかに過ごしたい」など、自分が本当に大切にしたい価値を整理する。 ・環境調整: ストレス源が強い場合は、そのストレス自体を減らす工夫をする。 ・物理的な制限: ベッドにスマホを持ち込まない、アプリ制限を設定する、物理的に離れた場所へ置くなどの仕組みを使う。ちょっとした工夫が未来を変える ユイさんは、帰宅後すぐにソファへ座ってスマホを開く代わりに、まず温かい飲み物を入れることから始めました。そして、「疲れているからスマホを見たいんだな」と、自分の状態を言葉にして確認するようにしました。 最初は5分だけ、次は10分だけ……と、スマホを開く前に、ほんの少しだけ別の行動を挟むようにしたのです。 1カ月後、ユイさんはこう話してくれました。 ユイ「前より『気づいたら2時間たってた』が減りました。それに、スマホを見る前に、『私、疲れてるんだ』って気づけるようになりました」 スマホ依存は、「触らない」と決意するだけで改善するほど単純ではありません。背景には、疲労、孤独感、不安、ストレス、生活リズムの乱れなど、さまざまな要因が絡んでいます。 大切なのは、「意思が弱い」と自分を責めることではなく、「自分は何を満たしたくてスマホを見ているのか」を理解することです。 もし、ご自身だけで工夫することが難しい場合は、専門家に相談してください。機能分析や生活リズムの支援を通じて、あなたに合った「スマホとの距離の取り方」がきっと見つかるはずです。 ◇ このコラムでご紹介した認知行動療法についてもっと知りたい方は「脱ダラダラ習慣! 1日3分やめるノート」中島美鈴著(すばる舎、2023)もどうぞ。<臨床心理士・中島美鈴> 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。