[PR]
空いたまま使われずにいる病院のベッド(病床)が、全国的に増えてきています。病床の利用率が下がった病院では、何が起きているのでしょうか。過疎地の医療を守るためには、何が必要なのでしょうか。医師は減り、機器は更新できず 細る治療手段 長野県南西部を南北に貫く中央アルプス、その西側にある木曽谷に、県立木曽病院がある。木曽町など6町村が入る「木曽医療圏」と呼ばれるエリアに、一つしかない病院だ。 谷の自然を描いた漆絵が飾られた待合室には、高齢者の姿が目立つ。「地域医療のとりで」を長く自負してきたが、できる治療は減ってきた。 がんの放射線治療をしていた部屋は、情報システムを担うコンピューターが入った「サーバー室」に変わった。高額な機器の更新を2020年に断念したためだ。 脳神経外科は05年に、循環器内科は16年に常勤医がいなくなり、脳血管障害の手術や緊急の心臓カテーテル治療はできなくなった。今年からはお産もやめた。1人しかいない71歳の麻酔科医が非常勤になり、緊急時の帝王切開などが難しくなったという。 木曽医療圏では24年、一般病床の利用率が52.6%だった。ベッドの半分近くが埋まっていない。救急車で運ばれたり、手術を受けたりする「急性期」の患者だと、医療圏内の6町村から木曽病院に入院する人は約55%にとどまる。 木曽医療圏のような「2次医療圏」は本来、臓器移植など高度なものをのぞいた多くの医療サービスを、圏内でまかなうものとされているが、それができなくなっているからだ。半分近くの患者が隣接する松本市など、ほかの医療圏の病院に流出している。 約20人いる常勤医のうち、半数近くは60歳を超える。定年退職したあと、代わりになる医師を信州大学病院から派遣してもらえるかどうか、見通しは立っていない。 濱野英明院長は「地域の中核となる病院の役割を果たすのが難しくなっている」と訴える。 北海道南西部、離島の奥尻町など5町がある南檜山医療圏は、さらに厳しい。 24年の病床利用率は29.9%で、20年前と比べると半減した。全国に330ある医療圏のなかで最も低い。 状況を打開しようと、圏内5町の医療機関などで「南檜山メディカルネットワーク」を20年に設立した。道立江差病院にあるCTやMRIなどの高額な機器を共同で使ったり、マスクなどをまとめて購入したりといった効率化に取り組む。それでも経費の半分ほどを税金で補う必要があり、その額は合わせて約28億円にのぼる。 この地域を所管する江差保健所の担当者は「どうすれば今ある医療を維持していけるのか、考えていきたい」と話す。病院の再編で、ベッドの利用率は上昇 木曽と南檜山ではいずれも、人口減が病床利用率の低下につながった。一方、同じように人口が減っているのに、病床利用率は全国トップの医療圏がある。 奈良県南部の12市町村がある南和医療圏だ。東京23区の約3.7倍にあたる広大な地域に、約6万1千人が暮らす。 ここも、かつては苦しかった。 00年代、三つある公立病院では医師不足が進み、救急患者の受け入れを断る事態が頻発。多くの患者が圏外に流出し、04年に69.1%だった病床利用率が10年代前半には50%台に落ち込んだ。患者が減って医師が集まらなくなり、さらに患者が減る悪循環になった。 県と12市町村で協議会を設立し、16年に病院を再編した。 公立病院のひとつを廃止。新たに作った南奈良総合医療センターで、救急患者をまとめて受け入れるようにした。 元々あった二つの公立病院は、長期入院などに特化。電子カルテを共通化し、スムーズに転院できるようにした。圏内の一般病床数は605から404に減らした。 救急患者の受け入れは年間4千件超と倍増した。利用率は上がり、24年には87.9%で全国一になった。公立病院の医師も2倍の約90人に増やせた。 ただ、お産のほか、心臓のカテーテル手術やがんの放射線治療など、一部の医療は諦めざるを得なかった。車で約40分の県立医科大付属病院と連携し、緊急時にはドクターヘリで運ぶことにした。 再編が議論されていた当時、圏内にある吉野町の町長だった北岡篤さんは「(町内の)吉野病院は産科や外科が撤退し、存続が危ぶまれていた。『病院は残る』ということで住民は納得してくれたようだ」と振り返る。通院が不便になるとの声があったため、町がバスを走らせることにした。 南奈良総合医療センター名誉院長の松本昌美医師は、「(圏内にある)3病院は離れているが、一つの病院だと思ってほしい」と住民に説明したという。「人口の少ない地域では全ての医療は提供できない。他の医療圏の医療機関とも連携し、切れ目なく医療をつないでいくことが大切だ」と話す。なぜ、病院のベッドが埋まらないのか 病床利用率が低いと病院経営は厳しくなる。総務省の公立病院に関するガイドラインでは、70%未満になると「特に低水準」とされ、この数字が病院のあり方を見直す際の基準の一つになっている。 朝日新聞が厚生労働省の統計「病院報告」をもとに、この病床利用率の変化を分析すると、全国的な低迷がはっきりと見えてきた。 精神疾患と感染症、結核、療養をのぞいた一般病床でみると、24年時点で全国に330ある2次医療圏のうち、利用率7割未満のところは35.2%あった。04年には370の医療圏のうち6.8%だったので、割合は5倍超に増えている。 背景の一つは、人口減少に伴…






