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「ビルの中で死にたくねぇ。輪島に帰りたい」――。肺がんと診断された男性が、最期に望んだことでした。知人の看護師や地域の人たちは、その願いをかなえようと奔走しました。取材した記者は、なぜ男性が「ふるさと」に帰りたがったのか……その理由がわかったと振り返ります。仮設住宅で「今は最高」「仮設住宅で末期がん患者のみとりをしようとしている」看護師の上吉原良実さん(45)から、そんな話を聞いたのは5月29日でした。多くのものを失った被災者は人生最期の日々を、どんな思いで過ごしているのか。知りたいと思い、上吉原さんに同行して石川県輪島市の仮設住宅を訪ねました。郷谷幸男さんの部屋は2階建ての1階。バリアフリーで医療用ベッドが置かれ、緊急通報用のブザーもあります。「今は最高。人間はやっぱり、生まれたところで死なないといかん」笑いながら、オロナミンCドリンクを手渡してくれました。2度被災、ステージ3の肺がんと診断郷谷さんは、仮設住宅から車で約10分の打越地区に住んでいましたが、2024年元日の能登半島地震と9月の奥能登豪雨で2度被災しました。地区は復旧に時間がかかるとして、近所の人とともに「長期避難世帯」に認定され、仮設住宅に入居していたのです。暮らしが落ち着き始めた2025年7月、血を吐いて病院へ行くと、ステージ3の肺がんと診断されました。今年5月はじめには再び大量に血を吐き、金沢市の病院に入院。医師から余命1年と告げられました。そして、こうも言われたそうです。「これ以上の治療法はありません」見舞いに訪れた上吉原さんに、今後の希望を尋ねられた郷谷さんは訴えました。「ビルの中で死にたくねぇ。輪島に帰りたい」「被災しても我慢しなくていい社会に」郷谷さんはトラック運転手として長年働き、県外に住んだこともありましたが、結局、自然豊かなふるさとに戻ってきました。上吉原さんは厚生労働省の災害派遣医療チーム(DMAT)事務局に勤め、地震直後に東京から輪島に入り、被災者支援に携わりました。DMATが活動を終えたあとも輪島に通って支援を続け、郷谷さんと知り合ったといいます。郷谷さんの思いをくみ、最期の時を仮設住宅で過ごせるよう、医療用ベッドなどを導入。地元の訪問看護ステーションや被災者の見守り団体と連携し、毎日訪問する体制を整えたのです。私が郷谷さんの部屋にうかかがったのは、退院から2週間たったころでした。上吉原さんに、なぜ郷谷さんの願いをかなえたのかと尋ねると、「どこで生きるか、どこで死ぬかを選べることは、とても大切。被災しても我慢しなくていい社会であってほしい」と話してくれました。約束していたバーベキュー郷谷さんの暮らしと、それを支える人たちの存在を伝えることは、被災地で病気や老いと向き合う人の希望になるかもしれない。能登半島地震から2年半になる7月1日に合わせ、記事を出そうと執筆を進めていたところ、思いがけない連絡を受けます。6月19日、上吉原さんからのメールでした。「昨日、入院されました」。呼吸が苦しくなり、酸素を吸入するため、輪島市の病院に入院したというのです。そして10日後、退院したらお見舞いに行こうと電話で容体を尋ねたあと、LINEのメッセージを受け取りました。「電話のあと、亡くなりました」通夜に参列するため輪島市に駆けつけると、郷谷さんのご遺体は、被災前に住んでいた地区で近所だった山口照雄さん(76)の家に安置されていました。日がゆっくりと暮れるなか、山口さんの自宅の庭で振る舞われたのは、イノシシ肉のバーベキュー。郷谷さんと一緒に食べようと約束していたものの、入院でかなわなかったからだといいます。この「つながり」があるから郷谷さんの最期の様子を聞くと、その日の朝、せき込む背中をさする上吉原さんに、「輪島に帰れてよかった。感謝してもしきれんわ」と話したそうです。そして、地域の住民や訪問看護師、見守り団体の職員にみとられ、息を引き取りました。病院からは暮らしていた仮設住宅が見えていました。翌日の葬儀では、参列者が棺の中に、山口さんの家の庭で咲いていた青紫のあじさいの花を供えました。棺が隣の部屋の火葬炉に運ばれ、扉が閉まる直前、親戚の1人が呼びかけました。「幸男、ありがとう!」郷谷さんと喪主を務めた山口さんに血のつながりはありません。「大変ではないか」と聞くと、「世話になったから思わんよ」と笑って短く答えました。このつながりがあるから、郷谷さんは輪島市に帰りたかったのだ、と納得しました。高齢化が進む能登半島地震の被災地では、どこで生きるかだけでなく、どこで死ぬかという課題も増えていくでしょう。人間の復興は、住まいやなりわいを再建するだけではできません。人生をどう締めくくるのかも、被災者と一緒に考えなければならないことだと感じました。一人でも多くの人が望みをかなえるには、どのような支援が必要なのか。これからも取材を続けていきます。ニュースが身近になるメディア「withnews」https://www.asahi.com/withnewsTikTokアカウント:https://www.tiktok.com/@withnewsYouTubeアカウント:https://www.youtube.com/@withnewschannel






