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毎年、ニュースの片隅で見かける「南極観測隊が帰国」の報道。ペンギン、氷山、オーロラ――そんなイメージが浮かんで、どこか遠い冒険の話だと受け流してしまう。でも、あの船の上では何が行われていて、なぜ毎年繰り返されているのか。朝日新聞ポッドキャスト「カガクをヒラク」で、67次南極地域観測隊に同行取材したくらし科学医療部の杉浦奈実記者が、約1カ月半の旅路を振り返りました。そこで語られたのは、冒険譚(たん)ではなく、地道な観測の積み重ねと、他人事ではない気候変動の手ざわりでした。今回話を聞いたのは、学生時代に生物学の研究室でDNAを解析していた経験を持つ杉浦奈実記者。環境省担当を経て現在は文部科学省を担当しています。テーマは、南極観測船「しらせ」での観測の実態と、極地で感じた気候変動のリアルです。※本記事は、ポッドキャストエピソード「南極からただいま!船上の研究室、極地で感じた気候変動… 観測隊の活動を語ります #2233」の音源を生成AIで文字起こしし、音声チームと出演者が確認・校正したうえで公開しています。フィールドにラボごと移動する、という感覚南極観測と聞くと、防寒具に身を包んだ隊員が雪原を歩く姿を思い浮かべるかもしれません。しかし、杉浦記者が同行した日程は「しらせ」での海洋観測が主で、こうしたイメージとは少し違いました。「フィールドにラボごと移動しているようなイメージです。フィールドはちゃんと寒くて、ちゃんと厳しく、ちゃんと揺れている。そこでなかなか採れないサンプルを採って、持ち帰っているんです」やっていることはざっくり言えば、甲板からセンサーを海中に下ろして深さごとの水温や塩分を測り、水や氷、海底の堆積(たいせき)物を採取すること。一見シンプルですが、その組み合わせから、どんな特性の水がどこに分布し、暖かい水が氷の近くにあるのか――つまり氷が解けるリスクがどのくらいあるのかなどが見えてきます。「しらせ」の船内には観測室があり、研究者たちはマイクロピペットを使い、採取した海水をその場で処理していました。採水ボトルだけでも約2千本。冒険というより、緻密(ちみつ)な作業の連続です。行方不明のロボットと、祈るような捜索観測には予期せぬ出来事もありました。水中ロボット「MONACA」を、ケーブルを外して自律航行させた際、浮上予定地点の近くに氷が漂流してきて、戻ってこなくなったのです。杉浦記者は「記者としては失格かもしれませんけど」と前置きしたうえで、こう振り返ります。「感情移入しちゃって。本当に帰ってきてほしいと思って、祈るような気持ちで探しました」手が空いた隊員たちがデッキに等間隔に並び、氷の隙間を目視で確認しながら「しらせ」を進める日が続きました。5日後、MONACAに取り付けられたビーコンが、おそらく上に載っていた氷が外れたことで電波を発信。元の地点から24キロ流されていたMONACAは、翌朝、無事に収容されました。開発者の山縣広和さんが「撮って大丈夫です」と事前に伝えていてくれたおかげで、その一部始終は映像にも記録されています。南極の氷の下、水中ロボットはそれでも潜る 行方不明から奇跡の再会「地球の未来を見ているのかもしれない」今回の観測海域は、東南極のトッテン氷河沖。日本が約10年にわたり観測を続けてきた場所です。北海道大学の青木茂隊長は、以前にもこの海域を訪れた経験がありますが、今回は海氷が著しく少なかったといいます。杉浦記者が氷河の端にあたる棚氷(たなごおり)の写真を撮りながら「こんなに近づけるんですね」と声をかけると、青木さんの答えは意外なものでした。「こんなに近づけることはなかった」海氷が少なかったからこそ、「しらせ」は棚氷の間近まで進めた。それは貴重な観測機会であると同時に、変化の著しさを示すものでもありました。青木さんは「ちょっと先の未来を見ている感じがして、怖い」と語ったそうです。それが長期的なトレンドなのか、たまたま今年だけの現象なのかは、まだわかりません。しかし杉浦記者にとって印象的だったのは、その怖さを口にしたのが「素人ではなく、その道のプロだった」ということでした。データがないまま、変わっていく怖さ日本では気象データが豊富に蓄積されていますが、南極は事情が違います。トッテン氷河沖は約10年前まで船が入れなかった海域で、それ以前の現場データはゼロ。データを十分に集める前に、環境が変わっていってしまう可能性がある――。杉浦記者は、その焦りのようなものを現場で感じたといいます。南極大陸の面積はオーストラリアの約1.8倍。その広大さのなかで、観測地点は限られています。海底の地形図すらない未踏の海域を「しらせ」が進むこともあり、「地図がないところに進むことがあるんだなというのは、そういう意味でアドベンチャーかもしれない」と杉浦記者は話します。毎年、大きな船に人を乗せて南極へ向かう理由は、この「まだ足りないデータ」を一つでも多く積み上げるためです。気候変動の将来予測に使われるシミュレーションも、元をたどれば、水温や塩分といった地道な計測の積み重ねが土台になっています。100年前に絶滅した生き物が、答えだったかもしれない番組の後半、話題は生物多様性に広がりました。「ペンギンやホッキョクグマが減っているということを、自分ごとにするには」という話になり、杉浦記者は「ちょっと黙っていられない」と身を乗り出します。南極の「ペンギンじゃない」鳥たちの魅力 高い固有性、北極と往復も生物多様性の重要さを説明するのによく引き合いに出されるたとえとして、飛行機のネジが1本ずつ外れていく話があるそうです。1本抜けても(=1種が絶滅しても)飛び続ける。でも、いつか空中分解する。そのラインがどこかは、過ぎてからでないとわからない、と。さらに、「まだ発見されていない生き物がいなくなるということは、あなたが将来関わるかもしれない難病を治すこととリンクしているかもしれない。でももうそれは(絶滅してしまったら)一生分からないですよ」ある生き物が絶滅するということは、その遺伝情報が永久に失われるということ。将来、医薬品や新素材の手がかりになるかもしれない構造が、誰にも知られないまま消えてしまう。MCの下地達也記者が「ミツバチがいなくなったら果物が食べられなくなる」と身近な例を挙げると、杉浦記者はうなずきつつ、こう付け加えました。環境問題への向き合い方として、一人一人の日々の努力はもちろん大切だけれど、もう少し大きな社会の選択――たとえば政治の場で環境政策がもっと語られること――を求めてもいいのではないか、と。ペンギンたちにも忍び寄る気候変動の影 繁殖の「壊滅的な失敗」も気候変動の話は、つい「自分が生きている間は大丈夫だろう」と思ってしまいがちです。杉浦記者自身も、その感覚がわからなくはないと認めたうえで、こう話しました。「少なくともすごく誠実に研究はされていて、それによって予想というのはあって。知って、どうするかという前提(の部分)はこれだけ誠実にやられているよというところまではお伝えできたらいいな」南極で研究者たちが積み上げているのは、結論ではなく、判断の材料です。それをどう受け止めるかは、一人一人の選択に委ねられています。刻々と環境が変わっていく世界で、私たちに何ができるのか――その問いは、南極だけのものではなさそうです。番組紹介「カガクをヒラク」は、科学の話題を楽しく深掘りする朝日新聞ポッドキャストのシリーズです。MCの下地記者、ナビゲーターの石倉徹也記者が、科学分野の担当記者と一緒に、身近な疑問からちょっと遠い研究の現場まで、時に脱線しながら語り合います。杉浦奈実記者のプロフィルニュースが身近になるメディア「withnews」https://www.asahi.com/withnewsTikTokアカウント:https://www.tiktok.com/@withnewsYouTubeアカウント:https://www.youtube.com/@withnewschannel








