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是枝裕和監督の「箱の中の羊」(東宝/ギャガ)で初主演を務め、自然体の演技が話題となった千鳥・大悟。芸風は、酒・たばこ・ギャンブル……時代と逆行するものでありながら、彼だけはなぜか許容される空気感がある。テレビ・ラジオで語られた後輩芸人や大御所、地元・岡山県笠岡市の北木島(きたぎしま)に住む父親とのエピソードから、その魅力の根幹に迫る。(ライター・鈴木旭)※以下、映画のネタバレを含みます。「健介」という市井の人綾瀬はるかをエスコートし、〝紳士的なセレブ〟を満面の笑みで演じながらカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩く。その振る舞いは芸人・大悟を感じさせたが、主演映画「箱の中の羊」の演技はSNS上で「自然でよかった」「泣かされた」といった声が目立つ。本作の舞台は、AIが暮らしに根付いた少し先の未来。2年前に7歳の息子・翔(かける/桒木里夢)を亡くした建築家の音々(おとね/綾瀬はるか)と工務店の二代目社長・健介(大悟)が、息子とそっくりのヒューマノイドを迎え入れて生活を始める。息子が戻ってきたかのように溺愛(できあい)する音々に対し、あくまで健介は「わしはキミのパパではない」と距離を取る。夫婦のズレが生じ、一時はぶつかり合う場面も。しかし、共に暮らす中でヒューマノイドに情が湧き始め、亡くなった息子に対する複雑な思いもゆっくりと解かれていく。健介は、大悟と同じ岡山県出身という設定。撮影前に是枝監督から、普段使っている一人称「わし」は控えるように言われていたが、撮影が始まって間もなく大悟は「わし」と口にしていたという。また、セリフを間違えて言い直したシーンもそのまま採用されたようだ。こうした点からも、かつて多くのドキュメンタリー番組を手掛けてきた是枝監督ゆえの采配が、大悟のナチュラルな演技をより光らせたと考えられる。筆者も映画館で作品を見たが、ヒューマノイドとはいえ7歳の男の子に「しつこいタイプ?」と尋ねたり、水族館の海洋生物を酒のさかなに見立てたりする姿は、大悟の私生活が連想されてほほ笑ましかった。その一方、綾瀬ともめる芝居には方言ならではの緊迫感があり、ヒューマノイドに亡き息子への悔恨を吐露するシーンにはホロリとさせられた。シリアスな大悟を見て、相方のノブがツッコミを入れる「トークサバイバー!」(Netflix)を連想しそうなものだが、そのイメージはすぐに吹き飛ぶ。映像から感じられるのは、私服からたばこのにおいがしそうな父親だ。まさに「健介」という市井の人だった。後輩も大御所も慕う芸人大悟と言えば、酒・たばこ・ギャンブル好き。テレビドラマやCMで喫煙シーンが減るなど社会が変化した昨今、時代と逆行する芸風で支持され続けるタレントは数少ない。それが許容されるのは、これまでの人間関係やエピソードによるところが大きいように思う。有名なところでは、南海キャンディーズ・山里亮太の暗黒期を救った話がある。山里は「M-1グランプリ2005」で最下位になり、全国の視聴者から「面白くない」というレッテルを貼られたと思い込んでいた。どんどん気に病んでいき、やがて芸人を辞めようと決心した山里は、駆け出し時代から世話になった大悟にも報告することに。あっさりそれを受け入れた大悟は、「約束やから」とひとまず東京で初開催する千鳥のトークライブに出るよう山里に伝える。ライブ当日、浮かない気分で向かった山里は目を丸くした。大悟をはじめとする芸人たちの話すエピソードが、軒並み自分にまつわるものだったからだ。話を振られ、最後に山里が「はい」と言うだけでも爆笑が起きた。この大悟の粋な計らいによって、山里が芸人引退を撤回したのは言うまでもない。もうひとつ、大御所・志村けんとの交流も大悟のイメージを決定づけた。2014年から始まった特番「ドリーム東西ネタ合戦」(TBS系)で東軍キャプテン(志村)と西軍チームの1組という立場で共演していたが、初めてじっくりとトークしたのは2017年3月の「志村けんのだいじょうぶだぁドリフみんな大集合スペシャル」(フジテレビ系)。ここで大悟の酒豪ぶりを知った志村が、飲みの席に誘ったと考えられる。以降、酒食を共にするようになった大悟は、急速に志村と距離を縮めることになる。大悟いわく「多いときは週8ペース」で飲みに行く関係となり、2018年からは「志村でナイト」(同系)のレギュラーに抜擢(ばってき)されるなど寵愛(ちょうあい)を受けることになった。なぜ大悟は、ここまでかわいがられたのか。今年5月30日放送の「人生最高レストラン」(TBS系)の中で、大悟は志村に初めて高級クラブに誘われた日のことをこう振り返っている。「クラブのお姉さまやから、(筆者注:志村さんの)両サイドに座るじゃないですか。志村さんがお姉さんのひざのトコに、手をこうポンッとやるじゃないですか。それを僕が『何しとんねんおっさん!』って言ってたんですよ(笑)。『何しとんねんおっさん! 顔見てみい、嫌がっとるやないかい』とか、ボケというか。たぶん、師匠はそんなことを今まで言われたことがないから、めっちゃ喜んで『何や、お前』って」志村はザ・ドリフターズの加藤茶の付き人になって数カ月後、平然と加藤の頭をたたいてツッコみ、関係性を深めている。親子ほど年齢の離れた大悟にも、当時の自分をどこか重ねていたのかもしれない。父親の話をうれしそうに語る大悟また、大悟と言えば、父親のエピソードが思い浮かぶ。地元は瀬戸内海にある北木島。都会から離れているからこそ、島の人間のピュアな振る舞いがおかしくも叙情的な魅力を放つ。例えば、こんな話だ。初めてのマクドナルドにはスーツを着て臨み、店員が注文を聞きにくるのを待っていた。大悟が大阪で高級ずしをごちそうした際、小声で「アジは島のほうがうまいな」などと漏らしつつ食した後、最後に緊張が解けたのか店の引き戸を開けた瞬間全てを嘔吐(おうと)した。直近では、「箱の中の羊」撮影期間中のエピソードが印象深い。ある日、北木島からそう離れていない広島でロケがあったため、大悟は両親を呼ぶことに。しかし、両親は岡山県本土の姉の家まできて尻込みし、「東京の人に見せる服がない」と撮影現場にこなかった。大悟からその話を聞いた共演者の綾瀬は、「それはいけません」とかぶりを振り、撮影終了後に大悟の両親がいる岡山へと向かい、一緒に写真を撮ったりサインしたりする神対応ぶりを見せる。そこで大悟の父親が「握手してもらってもいいですか?」と言って綾瀬の手を握り、「この手は一生洗いません」とボケたものの、緊張からか声がか細く何度も繰り返すハメになっていたという。そんな父親の話をうれしそうに語る大悟を見ていると、どんな相手にも親しみを込めて接していることが想像され、どうも憎めない。加えて、若手芸人がYouTubeやネットラジオなど多方面で活動する中、大悟は今もテレビと劇場を主戦場にしている。限られたメディアの中で積み重ねられた数々のエピソードは、大悟という芸人を形作る「物語」として機能してきた。その物語こそが、大悟をテレビスターたらしめているのではないか。ニュースが身近になるメディア「withnews」https://www.asahi.com/withnewsTikTokアカウント:https://www.tiktok.com/@withnewsYouTubeアカウント:https://www.youtube.com/@withnewschannel








