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「無事たどりついた」「ここ行くまでが大変」「手に汗」。インターネットを見ると、そんなアクセスの大変さの書き込みが目立つ一方で、素晴らしいとの感想もあった。 和歌山県橋本市中心部から車で、国道370号と県道、さらに車1台分の道幅の山道をたどること30分余り。対向車と出あわないよう願いつつ、ぽっかりと開けた標高500メートル超の峠の地に着いた。九度山町北又の山中に、「くどやま森の童話館」はある。 旧久保小学校の校舎を利用し、2017年にオープンした町の施設だ。紀州材を使った平屋建て、下見板張りの瓦ぶきで、窓枠も木。10段ほどの石段をあがると、正面玄関がある。 軒下には始業を知らせる鐘が見え、玄関脇には「創立百周年記念碑」と刻まれた石碑と、薪を背負い本を読む二宮金次郎の像がある。古き良き「ザ・日本の校舎」というたたずまいだ。 玄関を入ると、近くに住む管理人の扇迫(おうぎさこ)一夫さん(73)が迎えてくれた。多目的スペースでもある教室には、木や森、生き物をテーマにした約1千冊の絵本や童話本などが並ぶ。「窓を開けると風が吹き込み、昼寝には最適。クーラーはいらないです」と扇迫さん。 1キロほど離れた場所に銅を産出した鉱山がかつてあり、大正時代には100人を超す児童がいたこともあった。だが、校舎は01年の火災で全焼し、焼け残った玄関の柱をいかして再建されたが、最後の児童1人が卒業した06年から休校に。岡本章町長が、町と連携協定を結ぶ和歌山大の図書館長と童話館としての再利用を考え出したという。 訪れる人で最も多いのは、ハイカーだそうだ。童話館は、橋本と高野山を南北に結ぶ参詣(さんけい)道「黒河道(くろこみち)」の中間付近に位置する。 黒河道は、文禄3(1594)年、母親の供養で高野山を訪れた豊臣秀吉が山の禁を破って能を奉納し、突然雷雨になったのに恐れをなして馬で駆け下った、との言い伝えもある。今年は世界遺産に追加登録されてからちょうど10年だ。 ハイカーにとっては、しんどい山道の途中のほっと一息つける空間だろう。樹齢100年はある桜の木の下で食事する人もいて、扇迫さんは積極的に声をかけ、水を提供しているという。 絵本とともに童話館のもうひとつの魅力が、1千枚以上あるクラシックなどのレコードだ。 玄関脇に、かつて教師の宿直室だった離れの建物があり、開館当時の和歌山大の副学長が父親のコレクションを寄贈した。プレーヤーやアンプ、スピーカーもある。レコード棚からチャイコフスキーのピアノ小品集「四季」を選び出し、臨場感ある音源をしばし楽しんだ。 扇迫さんは1966年に旧久保小を卒業した。同級生は4人。桜の木の下での陣地遊びや、アケビやヤマモモ採りなど往時の思い出とともに、今の獣害の大変さを語ってくれた。「僕は山の中がいいから、ここに住んでいる。ハイカーの人とお話もできるし」 絵本の展示館は日本各地に数あれど、訪れにくさはとびきりかもしれない。かつて子どもたちの歓声が響いた空間は、静けさに包まれ、鳥の鳴き声と、木々を揺らす風の音しか聞こえない。 「カララ、カララ」。これからの季節は、そんな低く連続した鳴き声が加わる。グラウンド脇の小さなプールに張り出したモミジの枝に産卵する、モリアオガエルたちの鳴き声だ。 くどやま森の童話館 11月末までの土・日・祝日のほか、7月21日~8月末の木・金曜日も開館(午前9時~午後4時半)。入館無料。12月から3月は閉館。花見やコンサートなど年に数回のイベントもある。問い合わせは童話館(0736・54・3068)か、九度山町教育委員会社会教育課(0736・54・2019)。同館までの道路は狭いため、大型の車の通行は難しい。