【社説】今年の防衛白書 安全保障と経済成長を結びつける危うさ2026年8月7日 19時01分印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするXでシェアするはてなブックマークでシェアするこの社説のポイント●今年の防衛白書は、防衛力強化が経済成長や国民生活に寄与すると強調している●国連や国際通貨基金は違った分析を示しており、一面的な見方というほかない●防衛力強化を「希望」のように語るより、人材不足や財源の制約を直視すべきだ

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今年の防衛白書が公表された。4月に殺傷兵器の輸出を全面解禁する武器輸出政策の大転換があり、年末には安全保障関連3文書の前倒し改定を控える。「節目の年の白書」だとして、無人機やAI(人工知能)を活用した「新しい戦い方」や、防衛生産・技術基盤の強化などを詳述しているのが特徴だ。 その中で懸念されるのが、防衛力強化が経済や国民生活に寄与するという考え方を前面に押し出していることだ。 「未来につながる安全保障」と題した巻頭特集には、「防衛分野への投資は経済成長にもつながる」「国内の事業者からのドローン調達は経済成長にも貢献する」、デュアルユース(軍民両用)技術の開発で「日本の競争力が高まり、経済成長にもつながる」といった説明が並ぶ。 政府は近年、防衛産業への支援や武器輸出の拡大にからんで、「安全保障と経済成長の好循環」を語ってきた。その延長線上にあるのだろう。 政府は防衛関係費の対国内総生産(GDP)比を1%から2%に引き上げる目標を達成し、3文書改定では、さらなる増額が見込まれる。経済的利点の強調は、防衛費の大幅増に国民の理解を得るとともに、民間の企業や研究者から技術開発への協力を取り付けたい思惑からではないか。 ただ、この見方は一面的であって、防衛分野への支出が国民生活の向上や豊かさにつながるとは限らない。 国連の報告書は、同じ資源を軍事より教育や医療に振り向けた方が、より多くの雇用を生む可能性があると指摘する。国際通貨基金(IMF)も、防衛支出の増大は、財政赤字の拡大などによって、中期的に経済の脆弱(ぜいじゃく)性を高めるおそれがあるという。 政府と軍部、軍需産業が一体となって利益を追求し、戦争を誘発・長期化させた例も、古今東西で少なくない。 少子化に伴う若者の減少で自衛隊員は今後20年で約4割減少すると防衛省は試算している。サイバーやAIを担う高度専門人材をめぐる競争も激しい。広がる任務と縮む人的基盤の隔たりは大きい。 財源や人材をどう確保するのか、足元の厳しい現実を直視することなく、防衛力の強化を未来への希望のように語るべきではない。 白書には、日本の防衛の基本政策として、従前通り「専守防衛」が示されている。だが、集団的自衛権行使の一部容認や、敵基地攻撃能力の保有で、実態はその矩(のり)を越えつつある。3文書改定では、このギャップをどう説明するのかも問われる。防衛白書を公表 「新しい戦い方」や防衛生産基盤の強化などを重点「社説digital」は、朝日新聞朝刊に掲載する社説をいち早くお届けします。有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません