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上野千鶴子×鈴木涼美対談(前編) 法務省は売春防止法改正を目指し、専門家らによる検討会で議論が進む。なぜ「買う側」の男性の処罰が必要か。歓楽街の今後はどうなるか。フェミニストで社会学者の上野千鶴子さんと、「夜の街」で働いた経験がある文筆家・作家の鈴木涼美さんが語り合った。■国の検討会に当事者の声は 【上野千鶴子】 今回の対談を引き受けたのは、最近の動きに危機を感じるからです。 例えば、性売買に身を投じる女性の自由意思を尊重する「セックスワーク・イズ・ワーク」論。女性の性的自己決定、働く権利、生活する権利を重視するセックスワーカーの当事者支援の団体や一部のリベラル派が主張し、フェミニズムの狭い業界内で、この立場でなければならないという「踏み絵」になりかけています。 【鈴木涼美】 アメリカで1980年代にフレデリック・デラコステらの著書(邦題『セックス・ワーク 性産業に携る女性たちの声』)が注目され、日本でも要友紀子さんたちの「SWASH(スウォッシュ)」(99年設立)のような当事者支援の団体ができました。ただ、アメリカは、キリスト教文化を背景にした売春当事者への差別意識が根強く、犯罪大国で命がけの過酷な現場に身を置く当事者の自立意識も強い。日本の売買春の実態とは落差があるため、日本のセックスワーク論は全体に低調でした。 ちなみに今回の検討会は当事者の声を反映していないのでしょうか。 【上野】 メンバー11人のうち女性は4人。それも刑法の研究者や検察官、裁判官。性売買の実態をよく知る専門家と言えるのか。4月のヒアリングに呼ばれたのは4団体。性暴力がテーマのNPO法人やSWASHの代表、都女性相談支援センター所長、性風俗産業の視点に立つ弁護士。例えば、東京・新宿の歌舞伎町で女性たちを支援する支援団体の一つ、Colaboは呼ばれていない。このままでは現状追認、場合によっては買春者非処罰という最悪のシナリオになりかねません。 【鈴木】 もし本気で法改正に取り組むにせよ、当事者の視点がじゅうぶん反映されず、問題の改善につながらない懸念があると。 【上野】 例えば、検討会で発言した弁護士は性産業の規模を示し、規制を強化すれば215万人のセックスワーカーが失業し、年間2兆~5兆円の経済的な打撃があるという。「大きすぎてつぶせない」という論法は、3・11のときの東京電力救済と同じでしょう。 売防法(57年施行)の成立過程では、職を失うと懸念する当事者の声もあるなかで、原則は売春禁止と決めました。一方で、風俗営業法(48年施行)はソープランドやファッションヘルスなどの「性交類似行為」を実質、容認している。売春禁止という建前と本音の間に大きなギャップが生じ、多種多様な性的サービスが競い合う「買春大国」が野放しになってきました。それを国が保護する理由はありません。■「買春大国」日本 男性罰する北欧モデルとは 【鈴木】 上野さんは朝日新聞のインタビュー記事で、買う側の男性を罰し、売る側の女性は非犯罪化して支援の対象にする「北欧モデル」を高く評価しました。 【上野】 鈴木さんは、あの記事に興味深いコメントを寄せてくれました。性産業もボーダーレス化、グローバル化し、円安も進んでいる。これまでのように日本の男性が海外で買うだけでなく、買う側の男性が海外から日本にやってくる。売る側の日本の女性も海外に出稼ぎに出ていく。それが日本男性の沽券(こけん)を傷つけたのでしょうか。【鈴木さんがコメントプラスした上野さんインタビュー】福祉が風俗に勝てない現実、それは女性の選択か 【鈴木】 私は、売防法の売った女性たちだけが罰せられる対象となり、買った男性は不問に付される不公平感が解消され、ダメと言いながら実際は本番行為を避けた業態や場所や出会いを提供するだけの業態が緩やかに合法とされているような、「ゆるゆる」な規制を改める法改正なら賛成です。 ないといいながら実際はある、という本音と建前の乖離(かいり)は、その場所で働く女性もなんの罪悪感もなく付き合いなどで利用する男性も、どちらも危うい立場にすると感じるからです。 【上野】 買う側の男性と売る側の女性の「双方処罰」か、「双方非処罰」か、「片方処罰」か。 性売買の法規制にはこの三つの選択があり、女性だけが処罰される「片方処罰」の現状は、売防法の女性保護という理念に反しています。売る側の女性の「おニイさん、遊ばない?」という勧誘行為がダメなら、繁華街で「キミ、いくら?」と女性に声をかける買う側の男性は、なぜ処罰されないのか。■「立ちんぼ」検挙 さらされるのは女性の顔と名前 【鈴木】 街に出た女性は、男性に「いくら?」と声をかけられる。これは買春のオファー。本来は禁止の勧誘行為です。でも、新宿・歌舞伎町の「立ちんぼ」100人以上の一斉検挙では一部の報道で女性の顔と名前がさらされ、買う側の男性は表沙汰にならない。 【上野】 法律の条文と運用の間に大きなギャップがある。結果、何が起きるかというと、買う側の男性の調査によると、いまの日本の男性(20~49歳)は、金銭を対価にした「性的産業のサービスを利用したことがある」と答えた割合が約48%(東京大特任研究員・坂元晴香さんらの2023年オンライン調査)。ほぼ2人に1人。実態とかけ離れた「風俗」という名の下で、デフレ下の価格崩壊も起き、男性が性を買う敷居は低くなっています。 【鈴木】 業界の動向は時代により移り変わってきました。1990年代に女子高生の「援助交際」が話題となり、99年の風営法改正で無店舗・派遣型のデリバリーヘルスが広がりました。その間に「ワリキリ」「神待ち」「出会い系」などの言葉が使われた時期もあります。今なら「パパ活」や「立ちんぼ」。テレビ番組が扱い、ジャーナリストやユーチューバーが現地に入り、警察も取り締まりに乗り出しています。対談後半では・男性罰すれば女性のリスクは減るか(鈴木)・性売買は「ミソジニーの商品化」(上野)・売買春規制への考え方に変化も(鈴木)・「性的搾取」を受けた認識は?(上野)・「元AV女優」は辞められない(鈴木)・対等な立場の女性相手にできる行為か(上野)・福祉が風俗に勝てない理由(鈴木)■男が買う、女が売るのは自明か(上野) 【上野】 この問題を追うジ…