深掘り官僚に居留守された県幹部 リニア工事で確執も、「感無量」の締結式2026年7月23日 8時00分長橋亮文印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするXでシェアするはてなブックマークでシェアする
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深い溝が埋まったことを強く印象づける光景だった。 静岡県庁で18日に開かれたリニア中央新幹線静岡工区の協定締結式。静岡県の鈴木康友知事の傍らに、JR東海の丹羽俊介社長と国土交通省の水嶋智事務次官が並んだ。三つの組織のトップが一堂に会する――。数年前には想像もできないことだった。 「感無量でございます」。鈴木知事は記者会見で思いを口にした。【特集】リニアはいつ走り出すのか 「最後の1ピース」の着工容認とこれから ことの発端は、2013年にJR東海が公表した環境影響評価にさかのぼる。「トンネル工事で大井川の流量が毎秒2トン減少する」という予測値が示され、県や流域の自治体は一斉に反発の声を上げた。 当時の川勝平太知事は「大井川の『命の水』を守るのが使命だ」として、流出した水の全量戻しを求めた。しかしJR側は首を縦に振らなかった。川勝氏は17年、「堪忍袋の緒が切れた」と会見で言い放ち、着工を認めない方針を表明した。初のトップ会談、川勝前知事は静岡茶を勧めた その3年後、川勝氏とJR東海の金子慎社長(当時)による初のトップ会談が実現する。膠着(こうちゃく)状態を打ち破る糸口が見えるかもしれないと、周囲の一部には期待もあった。県庁での話し合いは2人きりで1時間20分に及び、その模様はインターネットで生中継された。 品川―名古屋間の27年開業という大目標に向け、JR側はすぐに着手しないと間に合わない土壇場に追い込まれていた。だが、議論は平行線をたどる。川勝氏は地元名産の静岡茶を勧め、大井川の水がいかに茶の栽培に重要かを力説し、改めて着工を拒否した。 打開を図ろうと国も乗り出す。 暗礁に乗り上げた議論の「行司役」として、国は有識者の会議を設置した。奔走したのが、当時鉄道局長だった水嶋氏だ。自ら静岡に入って記者会見を開き、「建設的な議論を」と歩み寄りを促した。しかし、会議の委員を選ぶ過程などに不満を募らせた川勝氏の怒りは、水嶋氏個人にも向かう。「恥を知れ」という痛烈な言葉まで飛び出した。官僚「僕の立場を考えて下さい」 川勝氏の強硬な姿勢は、霞が関全体に静岡県を「敬遠」する空気感を生んだとされる。ある県幹部は、国土交通省で知り合いの課長を訪ねた際、課の入り口で「静岡県です」と名乗った。しかし居留守を使われた。後で電話がかかってきた。「静岡県と名乗ってはだめですよ。僕の立場を考えてください」 冷え切った関係は、国との人事交流が途絶する事態まで招いた。この県幹部は「国とのパイプが極端に細り、政策を進める上でも悪影響を及ぼしかねない危機感があった」と打ち明ける。 時計の針が再び動き出したのは24年春。川勝氏が失言を機に辞任し、鈴木知事がバトンを受けた。 鈴木氏は「環境の保全」と「リニア推進」の両立を掲げていた。自ら省庁に足を運び、関係の修復を急いだ。JR東海も歩み寄る。25年1月、リニア駅ができない静岡県に対する地域振興策として、東海道新幹線「ひかり」の増便を提案。鈴木知事は「相当踏み込んだ回答。喜ばしい情報だ」と高く評価した。笑顔なき締結式、知事「これからが本番」」 徐々に「雪解け」が進む中で迎えた18日の式典。ようやくたどり着いた場にもかかわらず、記念撮影で鈴木知事に笑顔はなかった。 「これからが本番だ。しっかりJRを監視していく」。そう強調した。 南アルプスを貫くトンネル工事は、最難関とされる。他県に目を向ければ、工事現場の周辺で井戸の水枯れなど異変も起きている。長きにわたる議論は、本当に大井川流域の住民のためだったのか。その真価がこれから問われる。有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません






