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「文化部のインターハイ」と呼ばれる全国高校総合文化祭(総文祭)が、26日から秋田県で始まります。長野県松本市という一つの街から2校が参加する演劇、地域の実力派校が出場する郷土芸能と新聞、異ジャンルのコラボに挑む吟詠剣詩舞など各部門で注目の学校を紹介します。演劇部門 同じ街から全国へ 長野・松本美須々ケ丘、松本県ケ丘 全国の高校演劇部約2300校のうち、総文祭で上演できるのはわずか12校。うち2校が、同じ長野県松本市にある県立高校、松本美須々ケ丘と松本県(あがた)ケ丘だ。同一県で選ばれるのも珍しいが、一つの市となると異例だという。6月7日には、松本市内で2校による壮行公演が開かれ、約570人の観客を前に生徒が舞台に立った。 美須々ケ丘は、昨年も全国大会で最優秀賞を取った強豪校。関東ブロック大会でも、最優秀賞で勝ち上がった。「親愛なるキティ The Diary of a Young Girlより」は、ユダヤ人少女が第2次大戦中にナチスの迫害から逃れて隠れ家で書いた「アンネの日記」を現代の女子高校生が読んで考える物語だ。2人の少女それぞれの日々がラップのようなセリフでつむがれ、時を超えて重なり合う。 部長の田野尻瑚都(こと)さん(3年)の読書体験をもとに、新旧の顧問、昨年度の卒業生で作った。田野尻さんいわく「アンネの日記」は「言い回しがおちゃめで、めっちゃギャル」。現代の高校生に通じる部分に共感する一方、「希望がない中でも大きな未来を描き続けられる強さ」に憧れも。「美須々の演劇は、暗いことでも、異常なほど明るく描く。だから怖いし、わかることがある。私の好きな美須々らしさです」 県ケ丘は5年ぶりの全国大会。「お前に自転車の乗り方を~チェルノブイリ1986」は、旧ソ連で起きた原発事故で運命を変えられた人々を描く。部長の中西ほの花さん(3年)は、「遠い時代、遠い場所で起きたことだけど、家族を失ったら悲しいし、暮らしてきた土地を奪われたら『どうして』と思う。そこは大きく変わらないと考えながら役と向き合ってきた」と話す。 松本市では、まつもと市民芸術館があり、中高生向けのワークショップを開くなどしてきた。両校による壮行公演の主催者で美須々ケ丘演劇部前顧問の郷原玲さん(現松本深志教諭)によると、指導者の層も厚く、複数の学校が競い合っているのも特徴だという。ともに全国に進むことについて、美須々ケ丘の田野尻さんは、「全力でうれしい」。長野の高校演劇は文学的な作品が多いと感じるという。「全国で新たな風を吹かせたい」。県ケ丘の中西さんは、「これまでの大会で、美須々はいつも上にいる」と悔しさもにじませる。「一緒に全国に行けて、心強いのと同じくらい、ライバルでもある。燃えます」 壮行公演は、それぞれ「今のところの最高の出来」。上演後には両校の生徒が舞台に上がった。田野尻さんが「全国大会ではさらにパワーアップして、楽しかったと笑顔で帰ってこられるようにがんばります」とあいさつ。「秋田県行ってきます!」。会場はもう一度拍手に包まれた。郷土芸能部門 雪や祭り、弦で豊かに 青森・五所川原第一 梅雨晴れの空がのぞく音楽室の窓から、夕方の涼しい風が入ってくる。「ハイッ!」。生徒の掛け声を合図に、息の合った津軽三味線の合奏が始まった。ばちで激しく弦をたたく音が鳴り響くと、室内の空気は熱を帯び出した。 青森県の五所川原第一高校津軽三味線部は2025年、弘前市であった世界大会の団体の部で優勝と3位入賞の成績を収めた。本場の実力校だが、部員16人の約半数は高校から始めた初心者だった。その1人で副部長の奈良天雅(たいが)さん(3年)は、ベースやギターの経験者だが「ばちでたたくときに強弱をつけるのが難しかった」。同級生と合奏して改善点を出し合いながら技術を磨いた。「奏者の感情を音で伝えられるのが津軽三味線の魅力」と話す。小学3年から始めた副部長の木村希愛(のあ)さん(2年)は「3本の少ない弦で色んな音が出せて、悲しさや明るさを表現できる」と津軽三味線の強みを語る。 創部24年目で14回目の出場となる今夏の総文祭では、青森の四季と祭りのにぎわいを描く組曲「季(とき)ノ聲(こえ)」を披露する。祭りばやしや民謡など10曲余りを部員らで選び、組み合わせた。最難関は青森の吹雪を表現する曲だ。最初は少人数でゆっくりと繊細な音を奏で、徐々にテンポを上げて複数のパートの旋律を重ねることで、吹雪が次第に強まり、荒れ狂う様を表す。「ローテンポで音が小さいところほど、ちょっとしたミスでも目立ちやすい」と顧問の白取浩平教諭は言う。 部長の木村優奈さん(3年)は「静かなところは雑音が入ったりツボ(弦を押さえるポイント)がずれたりしないよう意識して、テンポが速くなってからは主旋律とハモリがうまく掛け合えるように演奏したい」。目指すは悲願の初入賞だ。新聞部門 レイアウト第一、読者目線で 神奈川・慶応義塾湘南藤沢高等部 自分たちが作った学校新聞「湘風(しょうふう)」が、教室でクラスメート全員に配られる。手に取ったみんなの様子を、新聞部の主将は見逃さない。 「熱心に読んでくれる人もいるし、そのまましまって読まない人もいます。読んではくれるけど『あの記事だけ飛ばしているな』というのも、はっきり分かるんです」 慶応義塾湘南藤沢高等部のSFC新聞部で主将を務める中山力樹(りき)さん(3年)が生徒の反応を重視するのは、「いかに新聞を読んでもらうか」に情熱を注ぐからこそだ。 SFC新聞部は全国高校総文祭年間紙面審査賞で2024、25年と連続で最優秀賞に輝いた。高評価の背景には紙面レイアウトの見やすさがある。中山さんは「記事が読まれるにはレイアウトが第一。写真や見出しを大きくしてメリハリをつけ、見出しに伝えたい内容を詰め込んで興味を引くよう意識しています」。 読者の視点に立った記事構成も欠かさない。25年7月の紙面で展開した「戦後80年特集」では、学徒出陣で戦死した慶応義塾生が残した手紙や遺書の内容を紹介したり、中等部の修学旅行先である広島平和記念資料館の館長にインタビューしたりして、生徒に戦争を自分事として感じてもらえるよう工夫を凝らした。 「生徒に一番読んでもらえるのは、自分や友達が載っている新聞」と話すのは、副部長にあたる主務の宇木ひなたさん(2年)だ。大会で優勝するなどの目立った成績を残した生徒を紙面で取り上げることが多く、それ以外の部活動の頑張りを伝えきれていないことが課題だと言う。「まだ企画段階ですが、引退試合や引退公演など、全ての部活動の引退にフォーカスした企画をやりたいです」と宇木さん。もっと読まれる新聞を目指して、湘風は進化を続ける。吟詠剣詩舞部門 弓道×吟詠、重なる音と形 熊本県合同チーム 静寂を破る朗々とした声。身心弓一(きゅういつ)にして是れ真誠(しんせい)――。 腹に響く節回しのなかで、構えてから矢を放つまでの弓道の様式的な所作が、ゆったりと展開される。これまでなかった組み合わせというのが不思議なほど、自然でなじんだ光景がそこにあった。 吟詠剣詩舞部門に出場する熊本県の合同チームは今年、吟詠+剣舞・詩舞という定型を破り、弓道との掛け算に挑む。ほかにも能や日本舞踊といった異ジャンルとのコラボレーションを積極的に打ち出し、一曲につき一つの芸能や武芸を披露する。 弓道吟は、チームを指導する八代白百合学園高校吟詠剣詩舞部顧問の大住葉子教諭が、同高弓道部の西川知志教諭に持ちかけて実現した。総文祭本番では、ベテラン詩家に今回書き下ろしてもらった漢詩「弓道精神」の吟詠にのせ、舞台に用意された「巻きわら」に矢を射る。類例がない試みのため、会場の許可取りなどにも骨を折ったという。 晴れ舞台で吟じるのは原永真緒さん(3年)。合唱経験があり、2年生から部活に入った。五線譜を使わない、裏声も使わない、口伝で節回しや音を伝えるという吟詠の稽古スタイルに当初は戸惑ったが、制約ゆえに「西洋音楽よりかえって表現できる幅が広いと思えるようになった。吟じていて、弓道や舞の動きとマッチした時が美しいと思う瞬間」と話す。 射手の中村朱里さん(3年)は、7月初旬にあった全九州高校体育大会女子団体戦で優勝したばかりの精鋭。競技者としては一息ついたのち、総文祭に参じる。「吟詠などほかの伝統芸能に触れて、価値観が少し変わった。一本の的中差で勝敗が決まる競技としてではなく、弓道の射形を見てもらうのも楽しい」。 火の国熊本から美の国秋田へ。伝統と伝統を掛け合わせ、心を射抜く準備万端を整えている。