[PR]

大リーグで活躍する菊池雄星(エンゼルス)や大谷翔平(ドジャース)が輩出した花巻東(岩手)の入部者はこれまで県内出身者が中心だった。昨春からは県外からも希望者を広く受け入れるようになり、海外から来た選手もいる。背景には、高校野球を、国内外の子どもたちにとって魅力のあるものにしたい思いがある。大谷翔平が言った「僕のわがまま」 子どもたち全員に留学チャンスを 「日本で野球をするなら花巻東だって決めていました」。宇野太陽投手(1年)は今春、アメリカ・カリフォルニア州から入学した。両親は日本人で、自身は日英のバイリンガルだ。小さい頃からずっと野球が好きだった。大谷らの活躍で花巻東を知っていた。 「アメリカの高校には全国大会がない。日本なら、どの高校でも甲子園に出て優勝できるチャンスがあるというのがおもしろい」と語る。 小学6年から移り住んだアメリカではアメフトもプレーしていた。それでも野球は特別で、プロアマ問わずアメリカで活躍する日本選手の動きを追っていた。花巻東の佐々木洋監督の長男で、花巻東からスタンフォード大に進んだ麟太郎内野手の試合も見に行った。 「アメリカは選手個人のレベルが高いけど、日本は一球に対する思いが強い。甲子園があって、チームワークで一つの目標に向かう。人生で一度きりの高校野球だったら、日本で経験したかった」と振り返る。ドイツから来た理由は 入学手続きを調べ、親も背中を押してくれた。掃除や洗濯など初めての寮生活は全てが新鮮だった。宇野は「靴下を裏返しで洗濯に出すと親に怒られる意味がわかった」と笑う。 佐々木監督の「他責にしない」という言葉が印象に残る。「人のせいにしたら成長は止まると教わった」。技術練習やトレーニング、食事に対する意識の高さなど「全部がためになっている」と充実感を漂わせる。 ドイツ・ミュンヘン郊外で生まれ育ったマイヤー拓内野手(2年)は、父がドイツ人で母が日本人。5歳のときに野球を体験する機会があり、周りがサッカーに熱中するなか、小学生から野球チームに入った。 大谷翔平のファンだ。親は、どこかのタイミングで日本の生活を経験してほしいと考えていた。そこで花巻東に連絡し、野球部の説明を受けた。マイヤーは「ここなら野球以外の人間性も成長できる」と思い、2025年12月に留学してきた。 初めての日本の練習はドイツと全然違った。声を出して練習を盛り上げることもおもしろいと感じた。「盗塁、牽制(けんせい)なんかの技術もレベルが高い」。気づいたことは何でも自分の手帳に記した。 留学期間は6カ月。濃密な時間を振り返り、「自分で考えて行動することが多くて大人みたいな生活だった」と話す。「この学校で過ごした時間は、僕の人生にとって必要な時間だったと思います」。そう言って、6月末に帰国した。 近年、麟太郎のように将来の大リーグ入りをめざし、学生の頃から海外に挑戦する選手が目立つ。 今春、佐々木監督は「甲子園に出られる、というだけで子どもたちが高校を選択する時代ではなくなるのではないか」と危機感を口にしていたことがある。「今は目標が大リーグ。だから、選手は自分の育成をしっかりとしてくれる学校に行く。大事なのは勝利と育成の両方。魅力がある高校野球にしないといけない」と考えるからだ。 様々な交流・経験を通じて人材を育成するために、県内に限らず、海外からも選手を受け入れた。語学力を身につけることもその一つだ。 「海外から選手をあずかると文化交流ができる。同じクラスにいるので、なるべく英語で話しなさいと言っている。野球だけ3年間やって終わり、ではダメ」と佐々木監督は語る。 古城大翔主将(3年)は、宇野やマイヤーと積極的に会話をしてきた。「アメリカでは大学野球が盛んだとか、大リーグの話とか、めっちゃおもしろい。知らないドイツの歴史をマイヤーが教えてくれた」。英語で話すこともあると言い、コミュニケーションの中身は野球だけではなく、互いに育った文化や生活環境にまで及んでいる。今年はフランスからの入部予定者もいる。日本の高校野球の魅力 佐々木監督は麟太郎の進学先を探す際に、アメリカで様々な高校の施設も見学して驚いたという。 「アメリカの環境を見ると、正直言って日本は勝てないと思う。グラウンドは天然芝で、トレーニング施設も充実している。スポンサーがついている高校もありました」 ただ、アメリカが全ての面で優れているとは思っていない。「日本は一生懸命に育てようとするので、選手を伸ばすことは得意なはず。そこでは負けたくない」 世界に飛び出すような人材を育てることが高校野球の価値を高め、野球界全体の発展にもつながる、と信じている。