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記者(62)は、富士山に登ったことがない。ところが、2025年春に福島県の郡山支局に赴任して、福島県内にいながらにして登れる方法が少なくとも二つあることに気づいた。さて、その方法とは―― 西会津町と喜多方市の境に標高508.6メートルの山がある。国土地理院の地図には「富士山」と書かれているが、正確には少し違う。西会津ではワ冠の「冨士山」、喜多方ではウ冠の「富士山」と表記されることが多い。 西会津町文化財保護審議会の会長を務める長谷沼清吉さん(82)によると、山頂は西会津町にあり、石の祠(ほこら)が置かれている。祠は町内にある冨士神社の分社で、山名も神社に由来する。「日本一の富士山だって、ワ冠で記述された古文書は珍しくない。我々はむしろ伝統をしっかり守ってきた」と話す。 2026年の山開きは7月12日で、福島県内の山としてはかなり遅い。しかも、山開きが始まったのは東日本大震災後の2014年と、歴史は浅い。 きっかけは、喜多方にある立岩口からの登山道が整備されたことだった。西会津では氏子たちが例年7月7日に登っていた。その伝統を受け継ぎ、7月の第1日曜に両側の住民たちが下草を刈って準備し、翌週に山開きをすることにした。 12日は、西会津町新郷冨士にある小清水集落で午前9時に開会式。表参道に当たる漆窪登山口から登り、頂上を経て喜多方の立岩口に降りた後、南側をぐるっと回って出発地点に戻る。 記者は山登りをほとんどしたことがない。500メートルを超える山にいきなり登れるか不安だったが、長谷沼さんは「出発地点ですでに標高320メートルぐらいある。途中に急坂はあるが、しっかり歩ければ大丈夫」と一笑に付す。下山後、おにぎりや、新ジャガイモが入った鯨汁が振る舞われる。 記者は2019年春から3年間、静岡市に住み、富士山を毎日のように眺めていた。「いる間に登ろう」と思っていたが、コロナ禍であきらめた。初の富士登山を会津でするとは想像もしなかった。 参加申し込みは、にしあいづ観光交流協会で7月7日まで受け付ける。電話(0241・48・1666=午前9時~午後4時)かメール(nishiaizu.event@gmail.com)で。参加費は食事込みで1500円(中学生以下は無料)。夢は「毎日見たい」 ダンプ120台分を自力で盛り土 もう一つの富士山は地図にはない。インターネットで知った住所をカーナビに入れて、田村市船引町春山を走っていたら、目に飛び込んできた。初夏だというのに山頂は白いまま。子どもが描く富士山そのままの姿だ。 高さ12メートルほど。佐藤正男さん(80)と志枝(しえ)子さん(79)夫婦が住む自宅の庭にある巨大な築山だ。「佐藤富士」と呼ばれることもある。 正男さんが子どものころに住んでいた家の風呂場に、富士山の絵が描かれていた。その後、型枠大工となり、山梨の現場で本物と出会う。以来、その姿が忘れられず、自宅を新築したのを機に「毎日見ていたい」という夢を実現することにした。40代半ばのことだった。 最初は、造園業者に5メートルほどの築山を造ってもらった。しかし、姿が気に入らない。自ら一輪車を使って盛り土を始めた。 3年ほど前に腰を痛めてやめるまで、4トンダンプ換算で120台分、総額で700万円以上かかった計算になるという。 息子は「富士男」と名付けた。もし娘だったら「富士子」にするつもりだった。自家用車のナンバー「37-76」は本物の標高だ。志枝子さんは、そこまでは認めていたが、山造りには大反対だった。 「庭にニンニクを植えていた。なんでそれをつぶして、山なんか造るのか。でも、ぜんぜん言うこと聞かないんだよね」 ところが、テレビや新聞、雑誌を見て来た人がニコニコしたり、感心したりするのを見て、次第にうれしくなった。今では、正男さんの代わりに登って草をむしり、花の手入れをするのが日課だ。 見物客と同じく、記者も頼んで登らせてもらった。上ほど勾配がきつくなる。かろうじて立っていられる8合目辺りで、河口湖をイメージした池の向こうにいる佐藤さん夫婦を撮影。米粒みたいに見えた。 正男さんは本物に2度登ったことがある。「念願かなって、うれしかっただろう」と思って尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「いや、ゴツゴツしていて少しも良くなかった。あれは登るんじゃなくて、見て楽しむもんだ」栃木に5カ所、茨城に2カ所……100メートル切る低山も 富士山は全国にいったいいくつあるのだろう。国土地理院のホームページにある「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp/#15/35.370963/138.711969/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1)で調べてみた。 検索窓に「富士山」と入れ、出てきた一覧から「小富士山」や「富士山公園」などを除いていく。日本一の富士山以外に17カ所見つかった。 標高のメートル順に並べると、西会津・喜多方の508.6は、栃木県那須塩原市の1184.0、長野県上田市の1029.4に次ぐ。 西会津での山開きのキャッチフレーズは「日本で2番目に高い冨士山 展望と信仰の山の頂上を目指す」だが、その地位は他に譲るしかなさそうだ。逆に、栃木県栃木市は93.7の低さだった。 最も多い都道府県は栃木の5カ所で、茨城3カ所、埼玉2カ所と続く。茨城には笠間市だけで2カ所ある。 読み方は「ふじ」とは限らない。広島県三次市には「とみし」、愛媛県大洲市にあるワ冠の冨士山には「とみす」とルビが振られていた。








