コラム・寄稿精神科医・松本一生印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする
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今回はいつもと少し趣向を変えて、認知症の人、家族、そして介護職に起きる体調変化について書きたいと思います。ただし、今回のコラムのような傾向は、医学界全体の認識ではなく、私の35年間の認知症の臨床経験から感じていることだと理解していただけるとうれしいです。今回も個人情報保護のため事実の一部を変更し、仮名で紹介します。妻と2人暮らし、「物忘れ」始まり認知症に 私の診療所にもう12年にわたって通院している松田省吾さん(82)は、血管性認知症のため関西の大病院で診断を受け、そこから当院に紹介されてきた人です。 若いころから血圧の乱高下があり、その大病院の循環器内科には何十年も通ってきました。今とはちがって、近所の「かかりつけ医」を軸とした医療体制ができるはるか前、大都会の中心部にある大病院に来院者が集中していた時代から、彼は外来で高血圧症を診てもらっていました。 彼を介護する妻の葉子さんは75歳、2人暮らしで、長く夫の体調管理を続けてきました。そんな省吾さんに「物忘れ」がはじまりました。葉子さんの相談を受けた担当医が何年か診てきましたが、怒りだすと抑制が利かない状態となり、私の診療所を紹介されました。周囲が暗くなると、急にそわそわしはじめる夫 省吾さんの認知症が中等度から重度にさしかかった3年ほど前から、葉子さんは夫の状態が悪くなる時期があることに気づきました。機嫌よく過ごしていても、少し周囲が暗くなってくる時間帯になると、急にそわそわしはじめます。夕食時には、葉子さんに対して大声を上げることが増えました。それ以外にも、雨が降る前日には不眠になったり、一晩中大声を上げたりすることがあります。 低気圧が近づいてくると混乱して、低気圧が過ぎ去るころには改善しているといった、気圧や気温など天候の変化による影響が出ることを私に告げてきました。必ずしもすべての人にあてはまるわけではありません。人によっては全くそういった変化の影響を受けない人もいるのですが、確かに私が担当する認知症の人のなかには、環境の変化に敏感な人もいます。 私の臨床はいつも認知症の人(当事者)の向かい側に介護家族を置いた診療です。省吾さんの状態の変化から、認知症が重症になってきたことを感じると同時に、介護者である葉子さんが燃え尽きないよう、時には休息の日を設けるようにケアマネジャーに連絡を取りました。 省吾さんがデイサービスを利用することで何時間かは葉子さんがケアから解放されます。時にはショートステイを活用して1、2泊してもらい、葉子さんが「ホッとできる時間」をもてるようにしました。一息つけるという意味で「レスパイトケア」と言われているものです。介護者が倒れることなく、ゆとりある介護ができれば、結果的には認知症当事者の経過も悪くならないことが期待できます。孫娘が東京で結婚式 「行かなければ悔いが残る」 ご夫婦には一人娘がいて、普段はオーストラリアに住んでいます。彼女の夫は航空会社に勤務する日本人で、海外生活はもう15年になります。その娘夫婦の一人娘が、東京に住む男性と結婚することになりました。松田さんご夫婦は省吾さんが元気だったころから、その孫娘とはいつも親しくしてきました。孫娘が東京の大学に進学したときは、親と離れて日本で暮らす孫のために、松田さん夫婦は「親代わり」も務めてきました。 そんな大切な孫娘の結婚式が東京で開催されます。葉子さんは省吾さんのことも気になりますが、「孫娘の結婚式に行けないなら一生、悔いが残る」と思い、私に相談してくれました。もちろん私も結婚式に参列することには大賛成でしたが、省吾さんは残念ながら参列できる状態ではないため、いつも使っている特別養護老人ホームのショートステイで5日間、過ごすことになりました。■7年ぶりの「休日」 心から…この記事は有料記事です。残り840文字有料会員になると続きをお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません関連トピック・ジャンルジャンル印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする






