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日本の働く現場につきものの「転勤」。ひとたび人事が発令されれば、悲喜こもごもです。ただ、本人や家族の負担は重く、近年は拒否感を示す人も珍しくないようです。著書『転勤の社会学』を今春出版した社会学者で京都産業大教授の藤野敦子さんは、転勤を当然視することは男性中心の働き方を温存すると問題提起します。転勤のあるべき姿を、藤野さんとともに考えます。社会学者・藤野敦子さんインタビュー言論サイトRe:Ronはこちら ――転勤を当たり前のことと受け止める人は、今も少なくないと思います。でも、不思議な雇用慣行です。 日本の転勤は、欧米などと比べると特定の職種に限らない幅広さが特徴です。 一つの企業で長く働き、様々な職種を幅広く経験する「メンバーシップ型」の働き方の日本に対し、欧米は特定の職種でキャリアを積み複数の企業を渡り歩く「ジョブ型」の働き方ですから、労働者一人一人が企業側と結ぶ労働契約で具体的な勤務場所や異動の範囲が定められています。日本のように、会社の判断で全国各地に転勤させられることは一般的ではありません。少数の管理職や高度専門職などを除けば、働きたい場所を決めて働くのが普通だからです。 ――日本でも自らすすんで転勤したい人は多くはない。ただ、転勤を伴う日本的な働き方にも利点はあるように思います。 企業側は新たな職場で経験を積むことによる人材育成を期待し、労働者側もキャリア形成や雇用の安定につながる。日本的雇用システムにおける転勤は労使双方にとって合理的な選択でした。 ただ、それは経済を動かす「生産領域」に限っての話。出産や育児などの「再生産領域」を視野に入れると不利益も大きい。日本社会の持続可能性にも影響が出始めているのではないか。経済合理性を中心に考える主流派経済学ではなく、経済合理性だけでは捉えきれない人の感情や家族関係、人と社会とのつながりを扱う社会学の視点から「転勤」を考える必要があると気づき、経済学から社会学の研究へと転じました。 ――自身も転勤に伴う引っ越しを何度も経験したそうですね。 転勤が多い夫に家族で同行するため、大学院を辞めて主婦の道を選びました。当時は夫の転勤が決まると1週間ほどで引っ越す必要があり、自分のキャリアやその土地ではぐくんだ人間関係などをあきらめ、新しい土地でゼロからやり直すことの繰り返しでした。のちに研究者の道を歩むことができたのは、様々な幸運に恵まれた結果です。 こうした体験は、夫が転勤を重ねながら第一線で働くかげで妻や子どもの負担が見過ごされているのではないか、夫と妻のキャリア形成に大きな格差が生じているのではないか、と考えるきっかけになりました。■家族帯同から単身赴任へ ――転勤を伴う働き方は長く当然視されてきました。 転勤は高度経済成長期に広がり、社宅の整備を背景に家族帯同を前提とする時期から、単身赴任が増加する時期へと形を変えながらも日本的雇用システムの中で持続してきた仕組みです。 ただ、近年は転勤の辞令を拒否して退職に踏み切る若い世代も目立ち始めています。大きな転機はリモートワークが一気に普及したコロナ禍です。仕事だけでなく、自分の人生設計や家族生活を重視する価値観も浸透しました。「失われた30年」を経ても変わらなかった企業側の意識もリモートワークの普及や人手不足により変わり、勤務地を限定する採用など、柔軟な働き方の選択肢も増えています。 2010年代に安倍晋三政権下で「女性活躍」が推進されて以来、片働きから共働きへの流れが生じたのも一因です。 ――しぶしぶ転勤の辞令に従った上の世代とは違う……。 転勤を断る勇気をもつ若者や現役世代が増えているのは、長期に持続してきた日本的雇用システムを揺るがす変化だと考えます。 欧米では雇用時の労働契約に転勤の可能性が明記されていたとしても、転勤を言い渡されるとパートナーの仕事や子育て、介護などの家族の事情を理由に断る人も少なくありません。個々の労働契約よりも人間として生きる権利(人権)が優先される、という社会的合意があるからです。ただし、互いのキャリアを等しく尊重する共働きカップルが多い欧米社会では、転勤や海外勤務をいとわない管理職などのカップルは子どもが少ない傾向があります。欧米社会は、仕事による居住地変更と家族生活の両立、社会の持続可能性という課題に直面しており、近い将来の日本の状況を示していると言えます。■少子化への影響は ――転勤が少子化に与える影響はどうなっていたのでしょうか。 今回の著書『転勤の社会学』…