コラム・寄稿精神科医・松本一生印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするXでシェアするはてなブックマークでシェアする

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物忘れや状況の理解・判断力の低下など、かつて認知症の「中核症状」と言われた症状は、病気の経過とともに少しずつ変化していきます。それと並行して出るものとして、心理面や行動面の症状(周辺症状)があります。不安や気分の沈み、やる気のなさなどから始まり、認知症が進行すると、今回紹介するような「他人を疑う気持ち」や「物盗(と)られ妄想」などが表面化します。行動面では、激怒したり、昼夜のリズムが混乱したりする場合があります。 今回は、他人に疑いの気持ちが出始めたにもかかわらず、人を信じようと努めた女性を紹介します。個人情報保護のため事実の一部を変更し、仮名で紹介します。 橋本洋子さんは、83歳になるまで、もう17年にわたって一人暮らしをしています。夫は病気で他界、ふたりの娘は結婚して県外で生活しています。 一人暮らしには慣れましたが、ある時、買い物から帰宅した際、自宅の玄関で転倒して腰椎(ようつい)を圧迫骨折してしまいました。その時、かかりつけ内科医に相談して、介護保険を利用するようになり、現在は「要介護1」で訪問介護のホームヘルパーに週2回、来てもらっています。「そんなはずはない」分かっているのに疑ってしまう そんな橋本さんに「物忘れ」が始まりました。今、ここでしたはずなのに、後になるとやっていなかった、ということが増えました。でも昔の記憶はしっかりと残っています。夫の介護で苦労したこと、娘の結婚では、ふたりとも金銭的に苦労していた相手を支える結婚だったこと……。そのような「苦労話」の記憶はしっかりと保たれています。 しかし最近、不安になることがあります。それは、自分の記憶にはないのに家の中のものが別の部屋に置いてあることです。「勘違いかな」。はじめはそう思っていましたが、何度も続くうちに「誰かが動かしているのではないか」と考えるようになりました。 そんなある日、結婚記念日に夫がプレゼントしてくれた腕時計がなくなってしまいました。大切なものなので、普段から自室の鏡台の引き出しの上に置いてあったのですが、いくら探しても見つかりません。探そうとするたびにひどい頭痛がします。それで、かかりつけ医を受診し、そのことを聞いた内科医から私の診療所を紹介されて来院したのでした。 彼女は言いました。「そんな…この記事は有料記事です。残り1747文字有料会員になると続きをお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません関連トピック・ジャンルジャンル印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするXでシェアするはてなブックマークでシェアする