アヴェ・マリア作曲 実は…2026年7月8日 8時00分文筆家・鹿島市生涯学習センター「エイブル」総館長 樋渡優子印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするXでシェアするはてなブックマークでシェアする
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令和見聞録 魔法のじゅうたんに乗って 《カッチーニのアヴェ・マリア》を聴いたのは、チェリスト・宮田大(だい)さんのコンサートか、2017年に彼が出したCD『木洩(こも)れ日(び)』所収の演奏を耳にしたのが最初だったと思う。 ジュリオ・カッチーニはルネサンス末期からバロック初期の頃、16~17世紀に活躍したイタリアの作曲家。YouTube(ユーチューブ)には宮田さんがこの曲を弾く動画があがっているが、聴いた方は「これがアヴェ・マリア?」と意外に感じるかもしれない。 例えば、よく知られるシューベルトやグノー作曲のアヴェ・マリアならば、清澄かつ馥郁(ふくいく)たる天上の世界におはします聖母マリアを讃(たた)える、華やかな旋律や歌唱に魅了される。他方、カッチーニは対照的に、シンプルな繰り返しから成る哀切極まりないメロディーが、生(せい)、それ自体がはらむ哀(かな)しさ、はかなさを語るようで、自然と個人的(パーソナル)な思いに囚(とら)われてゆく。 この世にアヴェ・マリアと名の付く曲が何百もあると言われる中、近頃はシューベルト、グノーにカッチーニを加えて〝世界3大アヴェ・マリア〟と称する例も少なくない。いわば名曲の仲間入りを果たした《カッチーニのアヴェ・マリア》であるが、実(じつ)は本当の作者は別にいて、旧ソビエト連邦の音楽家、ウラディーミル・ヴァヴィロフ(1925~1973)だと明らかになってきている。 ギター、リュート(琵琶(びわ)に似た弦楽器)奏者だった同氏は、自作の曲をルネサンスあたりの時代の高名な音楽家の作と言って、演奏していたらしい。つまり「偽作(ぎさく)」なのだが、普通は著名人の作品を自作と偽るところを、逆に、自分が作っていないふりをして、昔の音楽家たちの影に身を潜(ひそ)めた点が興味深い。 なぜそうする必要があったのか? 一説には極端なエリート主義の旧ソ連のクラシック界で、作曲家として無名な自分が曲を発表しても、誰も聴かないと判断したから。また批評の波に晒(さら)されることを恐れたとも。もう一つ、旧ソ連では西側の音楽を徹底して排除した。その状況下で、国の方針に背いて西洋音楽を作ることは危険な行為であり、古楽器の時代の曲と偽って演奏するしか、他に手立てがなかったのだろう、という見立ても有力である。(次回に続く)有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません
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