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野球のルールを根本から変えるのかどうか――。高校野球の公式戦における7イニング制導入について、議論が続いている。日本高校野球連盟が5、6月に、現役監督や大学教授、医師らを集めて開いた意見交換会を2回にわたって紹介する。仙台育英監督らが参加した第2回は「悩んでいる」 鳥栖工(佐賀)の大坪慎一監督は「悩んでいる」と何度も口にした。 「二十数年、公立の現場で監督をして、9イニングやってもらいたいのが正直な思い。私の感覚では、選手は練習がつらい。でも試合で本当につらいかっていうと、そうじゃない。(試合の)半分は(ベンチで)座って休める」と説明した。 甲子園大会に出場する選手の保護者の思いを代弁する場面もあった。「例えば佐賀県からだと1回見に来るだけで何十万円とかかる。家族や親戚、みんなで見に来て『七回で終わっちゃうっていうのは……』という意見はありました」 一方で、教員の視点として「佐賀県でも暑さ指数(WBGT)を測っていて、危険な場合は体育の授業ですら『今日は体育館で少しゆっくりしよう』となってきている学校もある。そういうことを考えた時に7イニングもありかな、とか」と揺れる心境を語った。 「高校野球が未来へずっと続いていくために、このまま気候や少子化の問題がどうなっていくか、ということを考えると悩んでいます」おおつぼ・しんいち 2009年に伊万里農林、23年に鳥栖工の監督として、ともに甲子園初出場に貢献。保健体育科教諭「10年、20年後まで想像力を膨らませて」 スポーツ法学に詳しい川井圭司・同志社大政策学部教授は、7イニング制導入の可否を「誰の意思を尊重して決めていくべきなのか」という視点で討論に参加した。 「9イニングか7イニングか、というのはスポーツの本質に関わる部分。大会関係者ではなく、高校野球に直接関わっている『構成員』が決めることが望ましい」とした。そのうえで「高野連の構成員は『学校』だと思う」と私見を述べた。 欧米では、学校スポーツにおける意思決定権を基本的には学校の教員が持っていることを紹介した。「教員は、責任を持った意思決定をするためにも様々な角度で情報をとっている。学校が責任を持って最終結論を出すことが、自治にもつながり望ましいのでは」と話した。 日本高野連のアンケートでは、現場の7割が7イニング制に反対している。そんな中で導入に踏み切ることは、「構造的にはありえない」と指摘した。一方、最終結論を出すべき学校側も「科学的な分析を入れながら、10年、20年後まで想像力を膨らませて対応していく必要がある」とした。かわい・けいじ スポーツ競技団体の意思決定や、学校スポーツについて国際比較の観点から研究している「熱中症は増えている」 スポーツ整形外科医の木田圭重氏は2008年から18年間、全国選手権京都大会で医療サポートを続けている。 「年々、熱中症対応が増えている。昨年は37件の対応があり、救急搬送も7件あった。選手より、見に来ている保護者とか応援のブラスバンドの子とかの熱中症の危険が増しているのは肌で感じる」と明かした。 また、「試合の後半になるほど熱中症で足がつることが増えてくる。7イニングになると、そういうのは減るだろうなと思う」と説明した。 シーズンオフは高校生の肩ひじ検診を行うなど、積極的に障害予防に取り組んでいる。「これは高校野球ではないが、けがをしている子に投げさせた監督がいた。『ずっと投げられていなくて、最後の試合も投げさせないとかわいそう』と言っていた」と振り返り、「子どものためという視点は持たれているが、そこにそぐわないこともある」と指摘。「僕ら高校野球に関わらせてもらっている医療従事者が注意して、積極的に声をあげることを今後もやっていきたい」と述べた。きだ・よしかず スポーツ整形外科医。京都府立医科大整形外科講師。2023年に野球のU18W杯で日本代表チームドクター。高校時代は野球部「社会からどう見られるのか」 栗山英樹氏は「大前提として野球をしていた僕らみんな、9回でやりたい。でも何かを考えなきゃいけない時期なんだろうなと思う」と語った。 9回か7回かを決める前に、議論を尽くすという姿勢をもとに、甲子園大会8強以上は9回制とする案や、アメリカの高校大会で1ストライクから始まる地域もあると例を挙げた。「トライアンドエラーでやらなきゃ分からないのなら一回やってみる。物事って決まるとバックしづらいが、ダメなら元に戻るのはどうか」と投げかけた。 また、高校野球が社会からどのように見られているのかを考えるべきだとした。「野球人じゃない人の意見を聞かなきゃいけないとも思う。高校野球はコロナ禍で(大会中止を決定して)社会にメッセージを与えた。今回、社会からどう見られるのか」。さらに「先生も忙しく負担がかかり、働き方改革という社会が求めるものもある。全国大会だけでなく、地方の状況も気にしたい」と話した。 生前の長嶋茂雄さんから「高校野球をとにかく大事に」と言われたという。「高校球児には将来、『野球やっていてよかった』と言ってほしいし、そのために意見を出し合ってほしい」くりやま・ひでき 元プロ選手。日本ハムの監督を2012年から10年務める。23年にはWBC日本代表監督として優勝「説明と丁寧さが現場に届いていない」 スポーツ界のハラスメント問題に詳しい法学者の谷口真由美氏は、日本高野連の検討会議が出した最終報告書を評価する。ただ、「(7イニング制は)一つの方策であって、ほかにないのかということも含めて考えないといけない。説明と丁寧さというものが現場の方には届いていないと感じた」と指摘した。 また、熱中症警戒アラートが出ているなか、試合が行われる現状について「海外から来た友人に『なんでアラートが出ている暑いところで、子どもがやっているの』と言われると、返す言葉がない」とした。さらに、高校ラグビーなどは試合時間を短くしているとし「野球だけがなぜ『9』でなければならないのか、理解できないところもある」と話した。 国際人権法の専門家としては、単純に子どもの声を聞くのではなく「大人がちゃんと説明することを諦めたらいけない」と指摘。高校野球は注目されているとし「大人がこんなに知恵を出すのだったら、ほかのスポーツもできるのではないか、と思わせる力があるのではないか」と話した。たにぐち・まゆみ 国際人権法、ジェンダー法を専門とし、情報番組でのコメンテーターなどでも知られる。一般社団法人スポーツハラスメントZERO協会代表理事7イニングに「断固、反対したい」 大阪桐蔭の西谷浩一監督は「断固、反対したい」と強調した。 日本高野連の検討会議が昨年12月に出した最終報告書を「毎日読んだ」と言い、「たくさん考えていただいたことに異を唱えるのは失礼かもしれませんが、私の中では脳みそがちぎれるぐらいには考えられていないと思います。7回制ありきではなく、9回できるように知恵を絞ることが野球界にとって一番大事だと思う」と語った。 日本高野連が行った調査で現場の指導者や高校野球ファンの大半が7イニング制に反対だったことに触れ、「アンケートを何のために取ったのか。ただの参考意見と言うのであれば、大変失礼だと思います」。 暑い時間帯は特別ルールで審判を交代制にしたり、観客席にテントを張ったりするなどの暑さ対策を提案し、「野球は9回でやるスポーツ。もし大リーグもプロ野球も社会人も大学も全部7回になるのなら考え方を改めないといけないですが、高校野球だけ7回になると、高校野球の価値が下がり、ファンも失い、子どもたちのやりがいもなくなる」と訴えた。にしたに・こういち 監督として選抜で5度、全国選手権で4度の優勝。甲子園で歴代最多の75勝。社会科教諭7イニング制議論の経緯 2025年12月、日本高校野球連盟の「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」は、暑さが厳しい夏の全国選手権について「可及的速やかに7イニング制を採用することが望まれる」などとする最終報告書をまとめた。さらに「2028年春以降、全公式戦で7イニング制を採用することが望ましい」とした。 7イニング制の提案理由について、熱中症リスクの軽減▽投手の障害予防▽競技の普及拡大▽教員らの拘束時間の減少などの効果を挙げた。また、課題解決へ向けて自ら変化していくというメッセージを込めることができる、とした。 最終報告書は、学業の妨げにならないように全国大会は長期休業中に行うことと、歴史的・社会的な見地から阪神甲子園球場で開催するのが望ましいことを前提としている。 日本高野連の井本亘事務局長は、2度の意見交換会の内容を連盟理事会で報告し、議論を続けていくと説明。「最終報告書の通りに進むのか、いろんな考えを加えていくのか。(7イニング制の導入可否について)どのタイミングで決定されるかは決まっていない」と話した。7イニング制の議論の関連記事はこちら






