ストーリー2026年6月1日 8時00分日比野容子印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする

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9年前、妊娠中の妻が、つわりでニオイがだめになった。特にきつかったのが、通勤電車の中だ。「倒れた」と連絡を受け、迎えに行ったのは一度や二度ではない。一時は鎖骨が浮き出るほどやせた妻を見て、「自分に出来ることはなかったか」と夫の樋口拓郎さん(40)はずっと思いを巡らせていた。 樋口さんは、ヘアカラー大手ホーユー(名古屋市)の経営企画室で働く。妻は当時、満員の電車の中で、他人の服の柔軟剤や洗い髪の残り香で、気分が悪くなった。その頃、営業担当だった樋口さんは、メーカーが「よかれ」と思ってつけた香りに苦しむ人がいることを知った。 2年前、社内で新規事業に手を挙げた。妊娠中の女性をターゲットとした「無香料」のシャンプーとトリートメントの開発だ。つわりの経験者など約40人に話を聞くと、単に香料を抜いて「無香料」にしただけでは問題は解決しないとわかった。原料に由来する油臭さや、酸っぱいニオイが残るからだ。 真冬でも窓を開けて息を止めてシャンプーする人。化学物質過敏症や抗がん剤治療中の人。自閉症で外界からの刺激に敏感な子どもなど、ニオイに敏感になる人がいるとわかった。市場規模は小さくても、ニーズは確実にあると思った。 最も難しかったのは、基剤臭(原料そのもののニオイ)を限りなく「無臭」に近づけることだ。そこで下水処理場や食品工場などの消臭を手がけてきた総合化学メーカー、第一工業製薬(京都市)に協力を仰いだ。不快なニオイを別の強い香りで覆い隠すのではなく、天然精油の組み合わせで「中和」して消す独自技術を持つ。 共同で試行錯誤の末、基剤臭を8割以上減らした「無香性」のシャンプーとトリートメント「mushu(ムシュ)」が生まれた。今月からアマゾンで販売を始めた。反応は上々だ。 かつて、つわりで苦しんだ妻に試してもらうと、「今は香りがないと物足りないかな」と笑った。「でも、それでいいんです」と樋口さん。「人生のある時期、必要としている人たちに届けられたら一番うれしい」有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりませんこの記事を書いた人日比野容子京都総局|経済(京都・滋賀)専門・関心分野オーバーツーリズム、鉄道・交通政策、歴史文化、医療・介護、クラシック音楽、スキー、料理、欧州など関連トピック・ジャンルジャンル印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする