インタビュー「日の丸を大切に」感情を守る刑罰がもたらすものは 刑法学者の警告阿部峻介印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする
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自分が持っている日の丸でも、公然と傷つければ犯罪とする――。「国旗を大切に思う一般的な国民の感情」を守るためだとして、自民党がそんな立法を今国会で実現させようとしています。刑法学者の松宮孝明・立命館大特任教授は「あまりに軽い議論で刑罰が作られようとしている」と警鐘を鳴らします。「国旗損壊罪」創設の骨子案の了承持ち越し 慎重意見を踏まえ修正へ ――外国国章損壊罪があるのに日本国国旗損壊の罪がない「矛盾を是正する」というのが、自民党と日本維新の会の連立合意書の説明です。 矛盾かどうかを考えるには、外国国章損壊罪の歴史を理解する必要があります。いまの刑法ができたのは1907年で、旧刑法の時代にはこの罪がありませんでした。だけど、それだと「困る」ということで立法に至りました。 象徴的な出来事が、1891年に来日中のロシア皇太子が警備中の巡査に切りつけられた「大津事件」です。 明治政府は外交関係が悪くなるのを懸念して死刑にするよう裁判所に圧力をかけましたが、事案は殺人未遂です。当時の刑法では未遂だと刑を「減軽しなければならない」ため、それはできませんでした。 結果的に無期懲役となって収まりましたが、政府は相当に冷や汗をかいたようで、旧刑法の改正に乗り出します。未遂の場合に刑を「減軽できる」と裁量にしたとともに、「国交に関する罪」の章を作りました。外国の元首や使節に対する暴行傷害の罪とともに入れたのが、外国国章損壊罪でした。要は外国にちょっかいを出して問題を起こすなよ、ということです。 ――外国旗を傷つけるような行為も当時あったのでしょうか。 ほとんど聞きません。判例で確認できるのは、最高裁が1965年に有罪判断を確定させた事件ぐらいです。 これは台湾の独立派が当時の中華民国の領事館に掲げられた旗を「台湾」と書いた看板で隠した、というケースです。最高裁は詳しい判断理由を示していませんが、その前の大阪高裁判決は、外国国章損壊の罪は「わが国と外国との間における円滑な国交」を守るためのものだとはっきり述べています。 こういう特別な事情があってできた刑罰なので、日本国国旗損壊罪がないのを「矛盾だ」というのはおかしい。こちらは国交と関係がありませんし、矛盾だと言うのなら、ほとんど必要のない外国国章損壊罪をなくせばいいのかもしれませんね。 ――とはいえ主要7カ国(G7)の国だけみても、アメリカやドイツ、フランスなどにも自国国旗損壊の罪はあります。 アメリカでは政府批判などの表現を制限するような使い方については違憲とする司法判断が出ていますし、他の国でも表現の自由を尊重した運用をしています。運用を見ずに、罪のあるなしで比べるべきではないでしょう。 日本で他人が持っている日の丸を傷つけたら、外国国章損壊罪よりも重い器物損壊の罪で対処できます。自分の日の丸の扱いにまで介入するのなら、いくら「外形で判断するから内心の自由に反しない」と言っても表現という内心の表れを処罰する以上、内心の自由を侵すことは明らかです。「よその国にもあるから」でいいのか そこで考えるべきだと思うのは、日の丸の特殊性です。 日本には侵略戦争をした過去…この記事は有料記事です。残り2297文字有料会員になると続きをお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません関連トピック・ジャンルジャンル印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする






