コラム・寄稿実写映画「ルックバック」評 磨き抜かれた映像と表現者の覚悟と2026年9月11日 20時04分金原由佳・映画ジャーナリスト印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするXでシェアするはてなブックマークでシェアする

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藤本タツキの漫画を是枝裕和監督が実写化した映画「ルックバック」の公開が11日に始まった。開催中のベネチア国際映画祭のコンペティション部門で公式上映され、観客からスタンディングオベーションを受けた。映画ジャーナリストの金原由佳さんは、原作やアニメ版に言及しながら、磨き抜かれた映像と表現者の覚悟に注目する。 ◇ タイトル通り、今作の魂は背中に宿る。藤本タツキの原作コミックの表紙にあるのは机に向かう主人公、藤野の後ろ姿。東北地方の、自然豊かな土地で暮らす彼女は小学校の学年新聞に四コマ漫画を連載し、ほめる級友たちに「5分で描いたんだけどね」と余裕のポーズで嘯(うそぶ)く。だが、夜通し、自室の机に向かい、もがく。 その向き合い方に拍車がかかるのは、不登校の京本の漫画が同時に掲載されたこと。京本の風景の切り取り方、画力の強さに藤野は驚き、「私より絵ウマい奴(やつ)がいるなんてっ」「絶っっ対に許せない!」と絵を描くことに尋常でない熱量を注いでいく。 原作は藤野と京本が邂逅(かいこう)し、中学では漫画誌への応募を目指してコンビを組む経過を、絵を描く後ろ姿の定点観測で紡いだ。押山清高監督によるアニメーションでは、二人の少女の持つ創作への初期衝動を、あえて手描きの粗い線を生かして構築した。どちらも思い入れの強いファンが多く、それ単体で完結したといえる世界観を、後追いで実写化する目論見(もくろみ)は? 是枝裕和監督による実写化で目が行くのは、子どもを取り巻く情景の豊かさだ。藤本の故郷である秋田県にかほ市で撮影され、冬の雪、渡り鳥、鳥海山系の山並み、京本家へと続く水田の緑が鮮やかに映る。 七瀬ふうりからの出口夏希による藤野、岡田六花(ろっか)から蒔田彩珠(あじゅ)への京本の、一挙手一投足を原作へのリスペクトをこめて、スタッフ総出で愛をもってすくう。磨き抜かれた映像は精製された砂糖のように結晶化され、選ばれし者の神話性を高める。それは諸刃(もろは)の剣で、原作の持つ、私たちの延長線上にある親和性や創作への執着こそが才能を磨くという題材を薄める。 逆に原作よりもはるかに強調されるのが表現者として、世の大多数の流れに背を向ける覚悟。原作では記号のごとき存在だった漫画誌の編集者に菅田将暉という重要な配役がなされ、彼がプロとなった藤野にかける終盤の一言にこそ、是枝監督の「作り続けた先に見た風景」が広がる。有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

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