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人の心を動かせるのは人だけ――。シンガー・ソングライターの松任谷由実さん(72)は昨年秋、新アルバムの試聴会で高らかにそう断言していた。 アルバム「Wormhole / Yumi AraI」は、人工知能(AI)の技術で自身の若い頃に似た声を合成し、楽曲を歌わせる試みで話題を呼んでいた。一方で、作詞作曲という創作の営みについては、それでも人間が優位だと強調していた。 それから1年足らず。AIが進化のスピードを増す中、当時の確信は大きく揺らいでいるという。「正直、途方に暮れる感じがあって。『やばい』と感じています」 長年にわたって創作の可能性を切り開いてきたユーミンが、いま抱いている恐怖や、それでもAIを使い続けようと考える理由について、胸の内を語った。【Wormhole / Yumi AraIとは】ユーミン×AI歌声合成の新作 松任谷正隆さんは「次も使うと思う」 ◇ ――昨年11月から今年12月まで続く、長い全国ホールツアーの最中ですね。全72公演を予定しています。 「アルバム『宇宙図書館』を引っ提げてのツアー(2016~17年)では、80公演でした。この年齢になると、3年や5年の間にかなり経年変化がありますから、『72歳で72公演』というと周りに驚かれるんですけれどね。パブリシティー(宣伝)的にも、年齢と公演数をそろえたほうが面白いのでは、なんて軽い気持ちで決めたんです」 「今、ホールツアーの大切さをますます感じています。一つでも多くの街、一人でも多くの人に、アルバムなり楽曲なりを直接、手渡したい。そのために、ホールはちょうど良いサイズ。2012年にベストアルバムを出した時に、『楽曲が届いていた』と実感したんですよ。それは2000年代にずっとホールツアーをしてきたから、たゆまず続けてきたからこそだ、と思いました」 ――7月にはツアーを一時中断して、盲腸の手術を受けました。8月18日の青森公演から、ツアー再開となります。 「きっと、あっという間に終わってしまうと思います。体調の不安も無くなりましたし、1ステージ、1ステージに、より丁寧に、心して臨みます」 ――昨年11月に出した最新アルバム「Wormhole / Yumi AraI」は、AIによる歌声合成技術を使い、若い頃の松任谷さんが歌っているかのような仕上がりでした。一方で、今回のツアーではAIを使わず、松任谷さんやコーラスの生歌で演奏しています。AIがまだ生演奏で使える水準に達していなかったからだと。 「そうですね」 ――今後のAIの発展次第では、ライブで活用される日も来るでしょうか。その時、どのように使われると考えますか。 「これからのライブは、バーチャルな世界とステージ上のリアルの、ハイブリッドになっていくのではないか。プロデューサー(松任谷正隆さん)はそう言っています」 「例えば、車のフロントガラスに映像を表示してリアルに道案内をする『ヘッドアップディスプレイ』という技術があるそうですが、そうした技術がメガネに搭載されて、みんなメガネをかけながらライブを見るようになるのではないか、と」 ――想像以上に現実味を帯びたお話です。 「現実的ですよね。人という種は、アメーバのように集まって楽しみたいという欲求があり、そこから祭りや音楽が生まれてきた。一方で、レコードの登場によって音楽が記録され、複製され、一人の時間が生まれた。今後さらに、個と集団のハイブリッドが深まっていくのでしょうね」 「ただ、これよりも先の話をしていくと、私はちょっと怖くなっちゃうんですよ。エンタメが、タブーの領域に入っていくのではないか、と思って」揺ぐ確信 「人とAIでブラインドテストをしたら……」 ――と言いますと?…