[PR]
小説「叫び」で芥川賞を受賞した作家の畠山丑雄さんと、ユニークな経営で知られる出版社ミシマ社の代表三島邦弘さんが、文学や出版界の現状と可能性について語り合いました。記者サロン「文学という共有地 芥川賞から考える書く人と届ける人の間合い」と題した対談。三島さんはRe:Ronで「共有地よ! 三島邦弘の思いつき見聞録」を連載中です。2人が考える「共有地」とは。対談のポイント・『叫び』の独自性と文体の魅力・売れる作品と書きたい作品のバランス・ミシマ社のサポーター制度・共有地としての文学の意義と技芸・武道と文筆業の共通点■漫談のような会話に織り込まれる歴史観 ――小説『叫び』を三島さんはどう読まれましたか。 【三島邦弘】 「土地の名があってそれから人の名があった」という1行目から、のめり込むように読みました。書き出しは最初から決まっていたのですか。 【畠山丑雄】 そういうわけではありません。郷土史を読んでいると、教科書には載っていない大事件がポンポン出てきて、その現場を歩くうちに土地の来歴のようなところに深く潜っていくような感覚になりました。まず土地の名前があり人の名になるというのは日本に限らずあることだと思いますが、人より土地が先というのがいかにも近代以前のようで面白いと思い、いろいろをギュッとまとめて冒頭の1文になりました。第174回芥川賞受賞作『叫び』小説の舞台は、大阪・関西万博を目前に控えた大阪府茨木市。地方公務員の早野ひかるが謎の老人(先生)と出会い、土地の来歴を聞いたり調べたりしていくうちに、旧満州での出来事や1940年の幻の万博など、時空を超えて現実があやふやに、自分と過去の人物の境がなくなるような感覚に襲われていく「恋愛政治小説」。 【三島】 文体の面白さと歴史観が横糸と縦糸で重なって、独自の世界ができあがっていると思います。登場人物の先生と早野のやり取りが漫談のようで、噴き出してしまう場面が何度もあり、そこに突然深い歴史観がポンと放り込まれてくる。そのあんばいがすごい。 【畠山】 先生の語り口は意識して造形したものです。ただ、小説のメインは論どうこうではなく、その論を語る先生という人間、そしてその論を受け取る早野という人間がどうなっていくのかというところです。だから、かっこよく言い切れるところでツッコミを入れるようにしました。 早い段階で読者にとって論を語る人間より、論そのものが前に来てしまうと、むしろ作品との距離ができてしまうと思うんです。だからちょっと突き放して書く。没入感を損なわないためのひとつのやり方です。ただ、今話したのは後から振り返った時の理屈づけで、実際書きあがっていく現場は手探りの粘土細工のようなものですが。■「面白いとわかる瞬間が必ず来る」 ――この対談イベントの参加者からの質問を紹介します。埼玉県の20代女性から「趣味で小説を書いていますが自信がありません。畠山さんが自分の書くものの面白さを信じられ、また書く楽しさを感じ続けられた要因は」。 【畠山】 自信のことは僕はあんまり考えたことがなくて。面白い作品を書けた時はわかるんです。2作目の『改元』も面白いのになんで周りはわかってくれないのかなと、ガリレオみたいに「地球まわってんのになあ、困ったなあ」っていう気持ちでした。信じるのではなくて、面白いとわかる瞬間が必ず来るので、それまで書くのがいいと思います。 実際、周囲の作家や作家志望の方を見ていても、皆基本的に自信が異様に肥大化しています。そして同時に皆、「自信が肥大化している周囲と違って、自分だけは例外的に自分の作品を客観的に評価できている」と思い込んでいます。だからむしろ作品を書き続ければ肥大化する自信との付き合い方や、社交の方が大切になってくると思います。誰もが「自分は正当に評価されていない」と考えている世界なので。■芥川賞の強さと届ける力 ――「書きたいものと売れるものとのバランスをどう取られていますか」という質問も。芥川賞受賞前後で反響や売れ行きに違いがあったのではないでしょうか。 【畠山】 全然違います。芥川賞は賞の強さがあり、出版社がプッシュしてくれる。無論私自身は自作の価値を確信していますが、それは読んでもらわないことにはわからない。賞の権威と価値によって、今まで届かなかった読者にも届くようになったので、非常にうれしく思っています。 自分なりの、読者に届ける工夫としては、音声や動画との組み合わせですね。具体的にはPodcastやYouTubeをやっています。 ――三島さんは出版社として、いわゆる売れ筋とのバランスは取っていますか。 【三島】 取っていると思うんですけども、明確には説明できない。僕は編集者で出版社の社長もやっています。こけ続けると経営に響く。だからって、売れさえしたらいいとはならない。実感を持って面白いと言える作品を出版し、経営的にも成り立つことは両立するに違いないという仮説からスタートしているんです。 【畠山】 少部数でもベストセラーでも読みたいものはあるし、逆に書きたいものも散らばります。例えば三島由紀夫や大江健三郎もエンタメやSFを書きたい時期があった。自分が今何を書きたいかに従っていったら、自然にバランスよくはできるかなと。■会社という畑の土壌を豊かに ――三島さんの「視座の芯」…






