信長貴富「くちびるに歌を」

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異業種から転身した作曲家は珍しくない。ロシアの巨匠チャイコフスキーは法務省の官吏だったし、現代音楽の先駆者、オーストリアの作曲家シェーンベルクは銀行員だった時代がある。そんな偉大な作曲家の名前を挙げたあとに、私ごときの話を始めるのは気後れするのだが、要は東京都世田谷区役所職員であった私の職歴は、決して特別なことではないということが言いたいのである。 役所を辞めるに至るまでには、いくつかの契機があった。 1994、95年の2年連続で、全日本合唱連盟と朝日新聞社が主催する朝日作曲賞(全日本合唱コンクール課題曲公募)を受賞したことで、信長貴富という人間がいるらしいという認知がじわりと広まった。それだけで作曲の依頼が次々と舞い込むほど甘い世界ではないのだが、世の中には青い田をいち早く刈り取ろうとする奇特な人がいるもので―― ある晩、アパートの静寂を破…