【社説】憲法に緊急事態条項 政府に権限集中の危うさ2026年5月16日 19時00分印刷するメールでシェアするFacebookでシェアするこの社説のポイント●衆院憲法審査会で緊急事態条項の条文イメージ案に基づく議論が始まった●議員任期の延長は、民主主義を支える国民の投票権を損なうもので、内閣による緊急政令は国会の権限の空洞化につながりかねない●権力の縛りを緩くする条項を、改憲ありきで推し進めることは許されない
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緊急時の政府の権限強化を憲法に規定する「緊急事態条項」について、衆院法制局などが条文のイメージ案をまとめ、14日の衆院憲法審査会で各党が意見表明をした。 主に自由討議を重ねてきた審査会で、具体的な条文案に基づいて議論が行われたのは初めてだ。ただ、緊急事態への対応を名目にした政府への権限集中は、権力の乱用や人権侵害につながる恐れがある。「改憲ありき」で突き進むことは許されない。 緊急事態条項を改憲の突破口にという動きは、第2次安倍政権下でもあった。災害対策基本法が定める緊急措置では足りないのか。災害への備えとして何を優先すべきなのか。そうした議論を抜きに、災害対応なら、国民の理解が得やすいだろうという思惑は明白だった。 今回も、改憲発議に意欲を示す高市早苗首相の下、自民党、日本維新の会の与党に加え、国民民主党も賛同するこのテーマなら手をつけやすいとの判断があるのだろう。 イメージ案はまず、衆院の解散後に適正な選挙の実施が困難になった場合、選挙を延期できるとした。さらに①大規模な自然災害②感染症の大規模な蔓延(まんえん)③内乱などによる社会秩序の混乱④外部からの武力攻撃――などの緊急事態に際し、内閣が国会の事前承認を得て「選挙困難事態」を認定すれば、国会議員の任期を延長できるとした。 時の政権の都合で、民主主義を支える国民の投票権を一定期間、奪うことになりかねない。衆院の解散中に緊急の必要が生じた場合は、現行憲法にも参院の緊急集会で対応する規定がある。参院側で任期延長の必要はないという意見が強いのはもっともだ。 さらに重大な問題をはらむのが、内閣が法律と同一の効力を持つ「緊急政令」を制定できるとする規定だ。「国会による法律の制定を待ついとまがない」場合というが、国権の最高機関である国会の権限を空洞化させ、三権分立の根幹を揺るがしかねない。 戦前の大日本帝国憲法下では、帝国議会の閉会中に緊急の必要がある時は、天皇が法律に代わる「緊急勅令」を出すことができた。政府の専断を許し、弾圧や人権侵害にもつながったことから、現憲法で廃止された歴史的経緯を忘れてはならない。 自民は、野党に異論が強い緊急政令より、まずは議員任期の延長について、条文化への作業を進めたい考えだ。権力を縛るための憲法に、その縛りを緩める条項が本当に必要なのか。議論が収斂(しゅうれん)されているとは言い難い。論点深められたVS.幅広い合意を 改憲、緊急事態条項で各党が討議「社説digital」は、朝日新聞朝刊に掲載する社説をいち早くお届けします。有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません関連トピック・ジャンルジャンル印刷するメールでシェアするFacebookでシェアする







