この社説のポイント●約3千人の命を奪った卑劣なテロから25年。法の逸脱を重ねた米国の威信も傷ついた●対テロ名目に武力行使の歯止めが緩み、憎悪が新たな暴力を生む悪循環が続いている●法治を立て直し、力に頼らずテロの土壌をなくす国際協調を築き直すべき時だ
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2001年9月11日、国際テロ組織アルカイダが旅客機4機を乗っ取り、米国の世界貿易センタービルや国防総省を攻撃し、約3千人の命を奪った。テロを首謀したとされるハリド・シェイク・モハメド被告らの初公判は28年6月。四半世紀を経ても本格審理に至っていない。 被告らが米情報機関の秘密拘禁や水責めなどの拷問を受け、供述の証拠能力をめぐる争いが長引いた。「テロとの戦い」を掲げた米国が法を踏み越えたことが、テロを法で裁く妨げになった。連鎖する法の逸脱 冷戦後に広がった平和と安定への期待を9・11は打ち砕いた。断じて許されない犯罪行為だった。だが米国は軍事力による対応に傾斜し、威信を損なう。この25年間はテロに傷ついた超大国が、その振る舞いで法の支配と秩序を揺るがした時代でもあった。 テロの容疑者を法的な手続きを経ずに第三国へ送る「特別移送」には、英国、イタリア、ポーランドなどの協力や関与も指摘された。キューバにあるグアンタナモ米軍基地の収容所には02年以来約800人が送られ、いまも15人が収容中とされる。 国境を越えて法を逸脱する発想は、姿を変え、さらに広がっている。トランプ米政権はベネズエラの大統領夫妻を拉致し、「麻薬との戦い」を名目に密輸船とみなした船を次々と空爆した。 テロ対策を法や人道の一線を越える免罪符にしてはいけない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはエジプト、インド、香港などでテロ対策や国家安全保障に関する法律が政府に批判的な言論や人権活動を封じるために使われたと指摘する。日本でも特定秘密保護法などが制定された。 多くの国の街中に監視カメラがあふれる。「安全」のためなら監視され、自由や利便を制約されても仕方がない。そんな感覚が日常に根づいていないか。治安と自由の均衡を問い直さねばならない。戦争の歯止め再建を 5年前の8月、米国は20年に及ぶ戦争に見切りをつけ、アフガニスタンから撤退した。深夜、逃げるように最後の米軍機が飛び立つ姿は超大国の敗北を象徴した。 復権したのは、アルカイダをかくまったとして政権の座を追われたイスラム主義勢力タリバンである。女性の人権軽視などを理由に、ロシア以外から承認されないまま統治を続けている。 米国はアフガニスタンからイラクへ対テロ戦を広げ、巨額を費やして失敗した。独善を武力で押しつける限界が示されたはずだ。 ロシアによるウクライナ侵略。イスラエルのガザ攻撃。米国とイスラエルのイラン攻撃。いずれも出口を見いだせていない。多くの民間人が巻き添えになっている。 9月初め、米軍はイランの軍事施設をミサイルで攻撃したと発表した。イラン側は結婚式場が被害にあい、5人が死亡し70人以上が負傷したと反論する。 アフガニスタンで2002年、結婚式で祝砲をあげているのを米軍機に対する攻撃だと誤認して空爆し、市民数十人が犠牲になった惨事を思い起こさせる。武力行使が新たな憎悪の種をまき、テロを生む。この悪循環を断ち切らなければならない。 第1次大戦後にパリ不戦条約が採択されながら、第2次大戦は起きた。その反省から国連憲章は武力行使を原則として禁じ、自衛や国連安保理の決議に基づく場合などに限った。だが、対テロ戦で歯止めがかからなくなった。 9・11の衝撃ゆえに、戦争を必然の選択肢にしないという理念まで手放して良いはずがない。いまこそ、緩んだたがを締め直すときである。土壌なくす協調こそ アルカイダは力を失い、派生した「イスラム国」もシリア、イラクでの支配地域を失ったが、テロの脅威が消えたわけではない。 オーストラリアの経済平和研究所は、世界のテロの震源が中東から西アフリカに移ったと分析する。統治の弱さ、貧困、気候変動による水や土地をめぐる争い、武器の流入などが背景にある。 振り返れば、戦乱の長期化で国家機能が弱まり、国際社会から顧みられなくなったアフガニスタンという空白にアルカイダは根を張った。 武力で組織や拠点をたたくことはできても、テロを生む土壌までなくせない。教育、開発、雇用、貧富の格差や気候変動に取り組み、忘れられた地域をつくらない多国間の協力が必要だ。 テロの要因は破綻(はたん)国家だけにあるのではない。9・11を首謀した中心メンバーには高い教育を受け、欧米で暮らした者もいた。いま、欧州では反イスラム感情や排外主義が強まり、若者の極右への傾倒も懸念される。 法の支配を守り、武力に歯止めをかける。国家の空白と社会の分断を埋める。そのための国際協調を築き直す。それが、9・11から25年をかけて得た教訓のはずだ。9・11で何が起きたのか ビジュアルでたどる事件とその後の25年「社説digital」は、朝日新聞朝刊に掲載する社説をいち早くお届けします。











