[PR]

最大震度7を観測した熊本県熊本地方を震源とする地震。猛暑のなか多くの被災者が避難しています。都市防災研究者の中林一樹・東京都立大名誉教授は「すでに複合災害になっている」と指摘し、今後も新たな災害に警戒が必要なため「被災後防災」を呼びかけています。短期・中期・長期と、どのような対策をすべきなのか聞きました。記事のポイント・猛暑はすでに「複合災害」・「被災後防災」の重要性・台風シーズン、風雨・土砂災害への備え・要配慮者へ地域ぐるみの支援・単なる避難所にしない発想・長期的な視点 ――今回の熊本地震をどう見ていますか。 「揺れが強く、古い家屋が倒壊しています。10年前の地震では問題なかったものの今回の地震のより強い揺れで倒壊した、という家屋が多いと思います。前回の熊本地震は約8千棟が全壊。半壊や一部損壊を含めると約20万棟超の被害でした。その後の修復で耐震性が上がり、今回の震度7に対して被害が抑えられた面はあった印象です。また、日中の地震だったことで、自宅以外の場所で被害に遭った方が多かったのが特徴です」 ――「被災後防災」が大事だと説かれています。どういう意味でしょうか。 「気候変動の影響で、災害はより激甚化・頻発化しています。地震で被災した後にも次の災害に備える必要があるのです。次の災害が起きれば、被災者の被害は激甚化し、避難者が増え、行政への負荷も高まり、人手不足も深刻になります」 ――「複合災害」が想定されるということですか。 「そうです。2024年1月の能登半島地震では、8カ月後に豪雨があり、地震後に建てた約220戸の応急仮設住宅が床上浸水しました。同じ人が2度被災し、被害が甚大になる『同時被災型複合災害』です。同時に行政はまた被害認定からの業務を繰り返すことになるのです。熊本県では、前回の熊本地震の復旧・復興期に新型コロナウイルス感染症の流行や水害があり、人手不足が激化しました」無傷に見える家でも雨漏りリスク ――今回はどんな複合災害の恐れがありますか。 「体温を超えるような猛暑は熱波災害であり、その意味ではすでに複合災害になっているのです。そこに地震で広域停電です。飲み水に加え、多くの避難者がいる避難所を中心に電源車などを配備し、クーラーを使えるようにすると同時に、小規模な施設にはプッシュ型の支援で発電機やポータブルクーラーを用意し、県が市町村の状況を把握し、公平に被災地域に直接送れる態勢を整えてほしい」 「台風などによる風雨災害も懸念しています。8~9月は台風が多く発生する時期です。いつ雨が降ってもおかしくない。瓦屋根の住宅も多く、地震後は雨漏りの可能性があります。無傷に見える住宅でも地震で瓦がずれていて、雨漏りする家が少なくないのです。せっかく地震の被害を免れた家財が雨にぬれて使えなくなれば、被災者にとって生活への影響は甚大です」 「緊急の雨漏り対策として、ブルーシートを屋根にかけ、さらにロープで固定する飛散防止対策は急がねばなりません。家財を一部屋にまとめブルーシートで覆う二重防御がいいでしょう」 ――土砂災害は。 「それもあります。長崎県島原市の眉山では大規模な斜面の崩落がありましたが、降雨で土石流が発生する恐れがあります。この地域だけではなく、広いエリアで裏山が崩れるといった被害も想定されるので、雨が降り出す前に安全な場所へ避難してもらいたいと思います。行政は、事前に浸水被害が想定されるような避難所を閉じ、安全な避難所に避難者を誘導しておく必要もあります」避難所を地域ぐるみの支援拠点に ――ほかに現状で求められていることは。 「短期的には、医療施設や福祉施設の機能の確保が求められます。同時に、多くの被災者が自宅で生活を続ける『在宅避難者』になっています。断水が続く地域などでは、食事を作るのも難しい。特に高齢者など一人で避難できなかったり、必要な情報を把握することが難しかったりする要配慮者には、町内会など地域のコミュニティーを中心に手分けをして弁当などの食料や飲み水などを配ったり、安否確認をしたりする地域共助が不可欠になります」 「そのためには、小・中学校など大きな避難所を単なる避難の場とするのではなく、在宅避難者を含め地域全体の要配慮者の支援拠点にする発想が必要だと考えます。例えば、社会福祉協議会や町内会のブースを設け、地域全体の被災者のニーズを集約し、地域ぐるみで支援する活動拠点にするのです」 ――今後、ボランティアに入る人も多くいると思います。 「ボランティアの方々が効率よく作業ができるようにするためには、自治体や社会福祉協議会と個々のボランティアの方をつなぐ中間支援組織の存在が重要になります。行政などが把握した住民のニーズと個々のボランティアができることを把握して、調整しマッチングするボランティアの司令塔です。熊本県にもこうした役割を担う災害ボランティア組織があるので、その団体と市町村の連携が重要です」 ――長期的な視点でするべきことはありますか。 「復旧の先に復興の時期がきます。私は、一つの災害への対策ではなく、複合災害にも備える『複眼復興』を目指すべきだと考えています。例えば、家を再建する場合では、地震に強くするだけではなく、浸水が想定される地域では、河川の氾濫(はんらん)や内水氾濫に備え、家の基礎や盛り土を高くしておくということです。お金が余計にかかるので、被災者生活再建支援法の支援に自治体が上乗せ支援する。それが将来の災害から住民を守ることにもつながります」 「複合災害は今回の被災地に限らず全国で起きる可能性があります。中長期的な対策として、複眼防災、被災後防災、複眼復興を今から考えて取り組まねばなりません」中林一樹さん なかばやし・いつき 1947年生まれ。東京都立大名誉教授。専門は都市防災・災害復興学。日本災害復興学会会長、内閣官房ナショナル・レジリエンス懇談会委員、中央防災会議専門委員などを務めた。