この社説のポイント●旧宮家の養子案などを含む皇室典範改正案は、男尊女卑をいびつに反映する内容だ●立法府や国民の「総意」からも逸脱しており、合意形成とはほど遠い●このままでは歴史に汚点を、将来に禍根を残す。撤回し、議論をやり直すべきだ 「立法府の総意」でも「国民の総意」でもない皇室典範改正に向け、高市早苗政権が遮二無二突き進んでいる。わきおこる異論や批判を顧みない姿は、極めて異常である。 皇室典範改正案について、与野党は10日の衆院議院運営委員会で審議することで合意した。ところが与党はわずか3時間の審議で採決して本会議に緊急上程し、即日衆院通過させることを急いでいる。国のかたちに関わる重大テーマであるにもかかわらず、力ずくで押し切る構えだ。必要と主張してきた「静謐(せいひつ)な環境」を自ら壊す暴挙である。 このまま成立させれば、歴史に汚点を、将来に禍根を残す。政府は法案を撤回し、一から議論をやり直すべきだ。 皇室典範改正の議論は、通常の法案とは性格が異なる。憲法1条は天皇の地位を「国民の総意に基づく」と定める。だからこそ歴代政権は、皇位継承や皇室制度をめぐる問題で慎重な対応を重ねてきた。特に、この改正案は重大な欠陥を抱えている。結論ありきで進めてはならない。にじむ男尊女卑 当初、「皇族数の確保」策を議論することが目的だったはずだ。「安定的な皇位継承」という大きな目標は、その先に位置付けられる。 そうした観点からは、改正案で女性皇族が結婚後も皇室に残れるようにすることには一定の意味はある。一方、結婚した際の配偶者や子を皇族にするかどうかは、今後の議論に委ねるはずだった。 ところが、結婚した女性皇族に住民基本台帳法を適用するなど、女性皇族の配偶者や子を皇族としないことを前提とした仕組みが、突如として政府案に盛り込まれた。 さらに問題なのが、戦後間もなく皇籍を離れた旧11宮家の男性子孫を養子として迎えることができ、その養子の男性子孫は皇位継承資格を持つと明示したことだ。 女性・女系天皇への道をできる限りふさいでおこうという思惑が前面に出た形だ。 天皇制に埋め込まれた男性第一主義を見直す好機だったのが、これではかえって男尊女卑を歪(いびつ)に反映する制度になってしまう。養子推進派の論理は、女性は決して皇位継承にはかかわらせないが、補佐的な役割としてはとどまってほしいという身勝手なものに映る。6月25日の与野党の全体会議でもこういった批判が相次いだのは当然だ。二つの総意から逸脱 改正案が「国民の総意」を得たとは到底言えない。世論調査では女性天皇や女系天皇を容認する意見が多数を占める一方、旧宮家からの養子縁組については賛否が割れる。朝日、読売、毎日、日経の全国4紙と多くの地方紙が、そろって社説で反対を表明している。歴史学や法学など各学界からも批判が相次ぐ。 改正案は、与野党協議で事前に取りまとめられた「立法府の総意」も逸脱している。一部野党だけでなく自民党内からも、「国会の総意にも基づかない内容であれば、憲法の精神に反することになりはしないだろうか」(船田元・衆院議員)などの声が上がる。国会内の十分な合意はまったく形成されていない。 天皇陛下も6月11日の記者会見で「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」と述べた。求められているのは、幅広い理解と納得を得られるよう議論を尽くすことであろう。 野党の対応は割れる。国民民主党や参政党などは賛成、立憲民主党や共産党などは反対の方向だ。そして、態度を決めかねているのが中道改革連合だ。野党の対応も焦点 中道がまとめた付帯決議案には「女性天皇の是非や女性宮家創設の検討」などが新たに加えられたが、仮に認められても法的拘束力はない。そんな付帯決議と引き換えに、十分な審議なしに賛成するのが妥当といえるのか。中道には良識ある判断を求めたい。 逆に衆院と参院でそれぞれ野党第1党の中道と立憲が反対すれば、改正案が可決されても「立法府の総意」は崩れ去る。野党の対応も焦点だ。 国民や立法府の総意から乖離(かいり)した改正案を政権が押し通せば、むしろ天皇制への国民の信頼を失いかねない。 歴代天皇や皇族は戦後、被災地や福祉施設などを訪ねてひざをついて対話し、戦争をめぐる慰霊の旅を繰り返してきた。象徴天皇制は、国民とともに築き上げてきた信頼関係の上に成り立っている。 象徴天皇制と、法の下の平等や個人の尊重など「人類普遍の原理」という、異質なものが憲法には同居しており、完全に整合させることは難しい。ただ、憲法的価値をはじめ国民が象徴として求めるものをさまざまに体現する努力が重ねられてきた。そこに歪な制度が無理やり導入されれば、不整合をかえって広げてしまわないか。 与党は成立ありきの姿勢を改めるべきだ。野党も安易な妥協に流されてはならない。必要なのは採決を急ぐことではなく、国民的な理解と納得を得る丁寧な議論である。このままの成立は許されない。「男系男子」固執した政府・与党 皇室典範改正案を閣議決定「社説digital」は、朝日新聞朝刊に掲載する社説をいち早くお届けします。
【社説】皇室典範改正をめぐる暴走 このままの成立は許されない:朝日新聞
「立法府の総意」でも「国民の総意」でもない皇室典範改正に向け、高市早苗政権が遮二無二突き進んでいる。わきおこる異論や批判を顧みない姿は、極めて異常である。 皇室典範改正案について、与野党は10日の衆…
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