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仕事の同僚や友人との関係は安定しているのに、恋愛になるといつも失敗を繰り返してしまう。今回は、そんな恋愛の悩みを、心理学の視点から読み解きます。 ヒナさん(42歳・フリーランス)は、最近、新しい恋のことで頭がいっぱいです。バツイチになり、仕事もプライベートも充実しているはずの彼女ですが、恋愛が始まると途端に心の平穏を失ってしまいます。友人のリョウさんに悩みを打ち明けました。 ヒナ「ねえ、リョウ。彼から全然LINEが来ないの。既読スルーは当たり前で、返ってきても一言だけ。会えば楽しいんだけど、私のことなんて本当はどうでもいいんじゃないかって不安で、夜も眠れないんだよね」 リョウさんから見れば、ヒナさんは明るくはつらつとした女性です。 司会業という仕事柄、現場では機転の利いたトークで大人気。同性の友達も多く、普段の連絡はむしろ「雑」なほうで、決して執着心の強いタイプではありません。 しかし、こと恋愛となると話は別です。昔から、自分に気持ちを向けてくれない男性に惹(ひ)かれては、最後にはボロボロの雑巾のようになってしまう姿を、リョウさんは何度も見てきました。 ヒナ「私、やっぱり愛されない女なのかな。言わない方がいいんだろうけど、つい問い詰めちゃうの」性格の問題ではなく、「愛着スタイル」が関係 そんな風に自分を責めるヒナさんの悩みは、単なる性格の問題ではありません。心理学、特に認知行動療法の視点から見ると、そこには「愛着スタイル」という心の設計図が深く関わっています。 ヒナさんのような恋愛の悩みは、単なる性格の問題ではなく、心理学でいう「愛着スタイル」の視点から説明できます。 「愛着スタイル」とは、幼少期の養育者との関係を通じて形成される、対人関係のパターンのことです。主に以下の四つのタイプに分類されます。 【安定型】 自分も他人も信頼でき、適度な距離感で付き合える。 【不安・とらわれ型】 人に見捨てられることを強く恐れ、過度に親密さを求める。 【拒絶・回避型】 親密になることを避け、情緒的な距離を置こうとする。 【恐れ・回避型】 親しくなりたいが傷つくのも怖く、矛盾した行動をとる。 ヒナさんの場合、仕事や友人関係では「安定型」ですが、異性に対しては典型的な「不安・とらわれ型」に陥っていました。 その背景には、家庭環境が影響していました。ヒナさんの父親は単身赴任が多く、家庭に無関心でした。感情的にぶつかることもなければ、気にかけてもらうこともない。そんな「情緒的な空白」を埋めるように、彼女は少女漫画の世界にのめり込み、白馬の王子様を夢見るようになりました。 しかし現実は厳しく、中学生の頃には話したこともない男子に突然告白しては振られることを繰り返し、「私は異性に愛されない」という悲しい体験を積み重ねてしまったのです。これらの経験が、大人になっても「相手の反応が薄い=嫌われた」という極端な認知(心のメガネ)として残っています。不安を打ち消そうとして「私のこと好き?」と確認せずにはいられなくなり、その重さが相手を遠ざけるという悪循環を生んでいたのです。恋愛に、認知行動療法のテクニックを使ってみる 認知行動療法を恋愛に使ってみましょう。中でも今回ご紹介したいのは「行動実験」というテクニックです。自分の感情に振り回されるのではなく、「行動」を変えることで「認知」も変化を促す強力なアプローチです。 リョウさんは、ヒナさんにこう提案しました。 リョウ「ヒナは女友達も多いし、仕事もうまくいってるじゃん。仕事の話してるときのヒナってほんとかわいいよ。その時みたいに、彼にも接してみたらいいのに」 ヒナさんにとって「安定型」の対象である、仕事や友達の領域を利用した、アプローチです。このような、本来彼に抱いている愛着スタイルのまま振る舞うのではなく、「もし自分が安定型だったらどう振る舞うか」を考えて、実験的にその行動で会ってみるのです。▼行動実験のコツ ・安定型かのようにふるまう:ちょっとしたロールプレー。周囲の安定型の人のまねをしてもいい。 ・安定している「モード」の転用:仕事や同性の友人と接している時の、自信に満ちていて適度にドライな自分を、恋愛の場面でも意識的に「召喚」する。 これは、心理学的に非常に理にかなったアドバイスです。自分の中に既にある「安定した関係を築けている時の自分(モード)」を、恋愛の場面でも呼び出すのです。たとえ心の中が不安でいっぱいでも、いったん「お芝居」だと割り切って、安定型の人間ならどう振る舞うかを演じてみます。 ヒナさんは早速、次のデートでこれを実践しました。いつもなら「どうして連絡くれないの?」と問い詰め、重い空気にしてしまう場面です。しかし今回は、最近あった仕事の楽しかった出来事を夢中で話したり、友達に接するかのように彼をちゃかしてみたりしました。 すると、驚くべき変化が起こりました。彼はいつもよりニコニコと楽しそうに過ごし、デートをお開きにするのを惜しがるようなそぶりを見せたのです。そして別れ際、彼の方からこう言ってきました。 「次はいつ会えるの?」 もちろん、これまで続いた長い関係であればあるほど、一度に解決するわけではありません。しかし、ヒナさんは「問い詰めなくても、自分らしく楽しんでいる方が、結果として愛される」という新しい成功体験を得ることができました。自分の振る舞いを変えて、悪循環から抜け出す 恋愛で不安になりやすい人は、「ありのままの不安を受け入れてほしい」と願うあまり、かえって関係を壊してしまうことがあります。そんな時は、いったんその感情を脇に置き、自分が得意とする「安定した人間関係のモード」を借りてきて振る舞ってみてください。 相手を変えようとするのではなく、自分の「振る舞い」という仕組みを変えることで、悪循環から抜け出せるのです。 恋愛以外でも、 ・弱気すぎてもうひと押しできない営業マン ・我が子に対して細かいことに目がいって小言を抑えられない親 など応用できる場面はいくつもありますよ。 まずはご自身がどの愛着スタイルをもっているかを認識しましょう。 これから続く長い人生、自分の中にある「健やかな部分」を味方につけて、うまく乗り切りたいですね。 ◇ このコラムでご紹介した認知行動療法についてもっと知りたい方は「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門」(光文社新書、2016)もどうぞ。https://books.kobunsha.com/book/b10124757.html〈臨床心理士・中島美鈴〉 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。