[PR]
今年の手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)に輝いたマンガ大賞の児島青(こじまあお)さん、新生賞のサイトウマドさん、短編賞のかわじろうさんは、いずれもデビュー数年で受賞を果たした新鋭だ。今回、3人の座談会を開催。前編でマンガ家となった経緯やコミュニティーへの考えを語り合ってもらったところ、当世の創作事情が見えてきた。「まんが道」に影響受けて ――皆さんはどのようにしてマンガ家になったのですか。 児島 もともと個人的には描いていたものの、発表することはなかったんです。ここ何年かでネットにマンガを載せることが当たり前の時代になってきたこともあり、イラスト投稿ができるSNSのpixivでマンガ投稿を始めました。そこで編集者の方に声をかけていただきました。 サイトウ 私もネットからです。いまは作品を投稿したら編集者とつながれるマッチングサイトがいくつかあり、私は講談社のサイト「DAYS NEO」で担当がつきました。でも、私の作品はその方の雑誌とは合わないかもしれないという話になり、薦めてもらったKADOKAWAのコミックビームで描くようになりました。 かわじろう 僕は小学生の頃、藤子不二雄(A)先生の自伝的作品「まんが道」に影響を受けて描くようになりました。主人公の2人が手作りのマンガ雑誌をつくっていたのにあこがれて、学校でコピー用紙を八つ折りにして、ギャグマンガを描いたりしていたんです。 その後中学生の頃にはあまり描かなくなってしまったのですが、思いは大人になってからも残っていて。コロナの頃に仕事が在宅勤務になって時間ができたので、出版社の「ゲンロン」が設立したマンガ家育成スクールの「ひらめき☆マンガ教室」で描き方を学びました。毎回いろんなマンガ家の方が講師で来て、講評を受けられるので勉強になりました。 サイトウ 教室ではどんなことをするんですか? かわじろう 例えば、いきなり「自己紹介の漫画を描いてください」というようなお題を出されるんです。16ページまでという制限で、自分が今まで経験した感情とか出来事を物語に仕立てて描いてください、と。ひいひい言いながら描いているうちに、だんだん描けるようになる。 教室でともに学んだ仲間の存在も大きいですね。まだお金にもならないマンガを描いていていいのだろうかと不安になることもありますが、教室に行くとみんな描いているから安心する。他の人がどうやって描いているのかや、自分のマンガのいいところを教えてもらえることもよかった。「不安が発露を越えてきた」 ――他のお二人はマンガを描くうえでの孤独感はなかったですか。 児島 描き始めた頃の話でいえば、1人で作る作業は発露なので、そちらの方が不安より先にくるんです。これを吐き出してしまわなければ、ということの方が先走るので、不安がのぞく余地があまりなかった。ただ、プロとして商業作品を描かなければならなくなった時に、初めて不安が発露をものすごい勢いで越えてきた。心の中にちっちゃい編集者さんが常にいて「そこはこうですよ」「ああですよ」と言ってくれないものかという不安や孤独感は今もずっとあります。 サイトウ 大体一緒です。私も最初の頃は、ネットに描いたものを出したら「面白い」と反響がきて、うれしさを感じることが中心でしたが、プロになってから怖さを感じるようになりました。 ただ、逆に私の場合は私の中に編集者さんがいると描けなくなっちゃう。これを描いたらまずいんじゃないかと意識しすぎてブレーキがかかって止まる。私の場合は1回発露に戻って吐き出してから、編集者さんに調整してもらう感じじゃないと、つまらないものになっちゃう気がして。 児島 サイトウさんの作家としてのスケールが大きいんだと思います。私はもっと引き出してもらわないといけないのかも……。 かわじろう しかし「怪獣を解剖する」は抑えてこのスケールだったら、すごいですよ。元がめちゃくちゃでかいのでは。 サイトウ いえいえ……。連載中の担当さんは比較的するっと通してくれる方だったからかもしれません。ただ、編集者さんが自分の中にいると描けないというのは悪い意味ではなく、自分の中のものを出し切ったうえで、編集者さんに調整してもらうとブラッシュアップされてよくなるんです。現代に「トキワ荘」は必要か ――アシスタントとして師匠のもとで修業するわけではないケースやネット経由など、マンガ家のなり方が変化するなか、現代にはマンガ家たちが切磋琢磨(せっさたくま)した伝説的アパート「トキワ荘」のような場は必要なのでしょうか。 かわじろう 一緒には住まなくてもいいのかもしれません。ただ、個人で描く人が多いなか、どうやって描いているかを共有しないままそれぞれが頑張るよりは、お互いに技を盗み合ったり参考にし合ったりできたら面白いんじゃないかと思うことはあります。 児島 仲間がいた方が情報共有できて助かりますよね。私もKADOKAWAの雑誌のハルタに拾ってもらうまでは、マンガの「基本のき」を誰にも聞いたことがなくて、めくったところにドンとくるコマがあった方がいい、とかそういう意識も全くないまま描いていました。技術的な疑問は仲間がいることでショートカットでき、悩まなくて済む。 サイトウ 私もマンガ家になってから同業の友達ができて、いろいろ教えてもらうこともあり心強い。ただ、私は美大に通っていたのですが、その時に周囲の影響を受けすぎて、10年間ぐらい何も作れない時期がありました。人によっては感化されすぎて作れなくなる人もいるのかも。 児島 入り浸っている方が伸びる人もいれば、距離を置いた方がいい人もいる。それぞれの距離感で「トキワ荘」と付き合えればいいのかもしれませんね。【後編はこちら】発想は乾燥わかめ? 映像化予言も 手塚治虫文化賞新鋭3氏語り合う【児島青さんインタビュー】「本なら売るほど」古本屋描く作家は思う「読書は面倒を楽しむ冒険」【サイトウマドさんインタビュー】「怪獣を解剖する」原点はダジャレとゴジラ、そしてレジ用iPad【かわじろうさんインタビュー】「あたらしいともだち」の題は兄が かわじろうが歩む兼業まんが道特別賞・武田一義さん出演ポッドキャストも 朝日新聞ポッドキャストでは、今年の手塚治虫文化賞特別賞を受賞した「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」作者の武田一義さんに作品に込めた思いを聞きました。番組はこちら(https://omny.fm/shows/asahi/2268)から。 こじま・あお 2022年に読み切り作品として始まった「本なら売るほど」を、マンガ誌ハルタで連載中。同作は「マンガ大賞2026」も受賞。 さいとう・まど 2024~25年に初の長編「怪獣を解剖する」を月刊コミックビームで発表。現在同誌でホラー作品「やってくる」を連載。 かわじろう 1992年生まれ。現在は会社員と兼業で活動中。2025年に初の単行本「あたらしいともだち かわじろう短編集」を刊行。






